古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

「しあわせになりたいけど がんばりたくなーい」

 ご存じ、「グロンサン」のコマーシャル。忌野清志郎が真っ赤なステージ衣装で街中(まちなか)に登場。ギターを弾きながら、通行人の間を練り歩く。大勢の“がんばる”人々に逆らって進むところが、いかにも清志郎らしい。


 清志郎の起用について、「強そうな人や、カッコつけている人はたくさんいます。でもホントは、飄々と自分の道を行けることがいちばんハッピーでカッコいい、とグロンサンは考えます」とある。ま、癒し系や脱力系がもてはやされる時代に媚びへつらったというところだろう。


 実はこの曲、清志郎が書いたものではない。中島靖雄によるもの。検索したところ、多くのCMミュージックを手掛けており、東儀秀樹の編曲も行っている模様。それにしても、清志郎のキャラクターにピタリとはまる曲だ。


 RCサクセション時代からロックの王道を歩んできた清志郎は、最早、日本のミック・ジャガーと言っていいだろう。体制に逆らうアナーキーなメッセージを常に発信し続けてきた。暗喩を盛り込んだ歌詞は、常識まみれの世間を嘲笑するような響きがあった。


 その清志郎が、「しあわせになりたいけど がんばりたくなーい」と歌う時、こっちとしては、どうしたって身構えざるを得ない(笑)。高度成長からバブルに掛けて、あくせく働いてきたサラリーマンは、今、リストラに脅える存在と成り果てた。会社の都合次第で、いつでも路頭に迷う時代となってしまった。


 我が国は、ベルリンオリンピック(1936年)の「がんばれ前畑!」に象徴されるような国民性をもって、第2次世界大戦に敗北し、高度成長を築き、バブルに酔い痴れ、今、途方に暮れている。


 そんなこんなを思う時、清志郎の放つメッセージはメーカー側の狙いを超えて、「国家や会社から言われて、がんばるつもりはないぜ! 与えられる“幸せ”とは、もう、さよならだ。俺は俺の道を選び、そこで、ひたすらがんばるのだ!」という風に聞こえてしようがない。