国債は「不況対策」と言える。戦後の復興期、高度成長期、80年代のバブル期を除いては、国債の発行が景気の振興に不可欠だったのが日本だ。国が歳出をカットすると需要減につながり、景気には必ず悪影響が出る。この点を忘れて、歳出減は財政赤字減って国が良くなるとの先入観を持つ人がいる。国の財政事情がよくなるとは、国民の生活レベルが下がる事を意味する。バブル期、国の税収が増えて財政が好転し、国民も大層リッチになった。しかし、バブル崩壊後の日本を見れば、その様な事態こそ実は異常な状況だったという事実がわかる。
その意味では、無理に需要を作り出さずとも済んだ高度成長時代が理想とも思える。但(ママ)、あの時代の生活レベルと、現在の生活レベルとを比較して欲しい。一人の人間としてどちらを選択するかとなると圧倒的多数の人が現代を選択するはずだ。安定成長時代には、財政赤字を減らせば国民の生活レベルを落とす事になる。豊かさに慣れ親しんだ日本人が我慢できるだろうか。少し景気が落ち込むと政府に不況対策を迫る。96年の3.5%成長はその典型例だと知って欲しい。公共事業の不況対策効果に少し翳(かげ)りが出てきたとわかってきた現在は「所得税減税」の大合唱になる。減税の結果景気が回復し、減税がなくなると再び景気が悪化し始め再び……というくり返しになると考えるのが妥当だ。もうこうなると答の解っている芝居と同じで、建て前の財政改善と本音の景気対策との戦いが果てしなくくり返され、結果的には常に景気対策優位の図式が成立する。
何故こうなるのか? 実は答えは意外に簡単だ。そのヒントは日本の貯蓄率にある。日本の貯蓄率が14%台でアメリカの貯蓄率は4%台だが、貯蓄とは消費しないという事だ。景気が悪くなるのは当然だ。アメリカは、貯蓄が少ないがゆえに好況が続き易い。参考までにいうと、97年のアメリカの貯蓄率は3.8%となり、1939年以来58年ぶりの低水準となっている。96年も4.3%と低かったが、それをさらに大幅に上回るのだから好景気もうなづける。もっともデータの取り方に問題があるという識者もいるので、個人ローン中心の破産者の数で比較するのも一つの方法だ。日本の場合、近年まで5万件以内だった破産者数が6万件、7万件となり、金融不安を説明している。ところがアメリカは論外だ。85年に40万件が、91年には80万件、96年には110万件となり97年も20%以上の伸びになりそうだ。人口比で考えれば異常といえる。
【オーエス出版社、1998年】
日本の財政赤字は先進国の中でも最も深刻だが、実は純負債残高は一番少ない。政府が保有する金融資産(社会保障基金、外貨準備、国の預金・貸出金)が多いためだ(95年時点で378兆円)。
アメリカの経常赤字は世界経済を支えるもので(アメリカが黒字になるいうことは、多くの国が赤字となる故)、ドルが世界の基軸通貨であるため損をしない仕組みになっている。