クリシュナムルティは90歳で亡くなっているが、最晩年の映像だと思われる。顔を拭う右手に震えが見られる。ガンディーと友情を結び、ネルーと語り、インディラ・ガンディーにアドバイスをし、国連から顕彰され、各大学で講演を行い、アメリカの大学でテキストに採用された思想家は、尊大ぶるところが全くなかった。妙に慈(いつく)しむような視線もない。真っ直ぐに子供達と向き合っている。『子供たちとの対話 考えてごらん』もこのような雰囲気であったのだろう。後輩に少しばかり翻訳してもらったので併せて紹介する。釈尊の対機説法もきっとこのように繰り広げられたに違いない。子供達は「竜女」(りゅうにょ)の化身か。
さぁ、何について話したいかな?
―― Pride.(誇りについて)
何だって――誇り? 君は誇りを感じているかい?
――時々。
時々。なぜ? 君はどんなことに誇りをもっているんだい?
――Achievement.(成果、業績、功績)
成果か。君はいままでに何を成し遂げてきたんだい?
(「……多くの人が成果をあげてきた」といった内容か?)
君が求めているのは、成果なのかい? それが、みんなが話したいことかい? ……誇り、成果、成功、お金、地位、権力、それが君たちが欲しいものすべてかい? 恐らく、それは間違ったルールだ。愚かであってはならないよ。自分をdeceive(惑わす、だます、欺く、裏切る)してはだめだよ。(君たちは…そういう考えを…)
――(少年の発言)
今、この少年はこのように言っている。「私たちは、それらのことでcontribute(貢献する、寄与する)できる」と(?)。それで、君はどうしてそれがわかるんだい? よし、こっちへおいで。
――(「お金があれば、やりたことがなんでもできる、だからお金をたくさん稼ぎたい」みたいなことか?)
それで、君はなにになりたいんだい?
――(お金持ちになれるようなものならなんでも。そうすれば尊敬されるし。お金だけが信頼できる)
(笑える箇所なのに私には聴き取れません)
(笑)確かに君は正しいよ。それで、○○なら、それがとても快適な生活なのかい?
――そうです。
それで幸せなんだね?
――そうです。
それが、君の望むことかい?
――そうです。
それなら、そうすればいい。(?)
――(簡単な方法は?)
……他になにか質問は?
――meditation(瞑想)とconcentration(集中)の違いは?
……本当にそれについて話し合いたいのかい?
……他になにか質問は?
――meditation(瞑想)とconcentration(集中)の違いは?
……本当にそれについて話し合いたいのかい? 本当に、瞑想と集中とはなにか知りたいのかい? わかったよ。もし本当にそれについて話したいのなら、これから私が言うことをしっかり注意深く聞いておくんだよ。
――Yes, sir.
「Yes, sir.」なんて言うんじゃないよ(笑)。もし本当にそれについて話したいのなら、それは本当に本当に重大なテーマです。集中とはどういうことだと思う?
――それについて、深く考えるということです。
それで、それはどういう意味だい?
――考え続けたいと思う何か。
こっちへおいで――。“考え続けたいと思う何か”―― それでいいかい?
――はい。
それに挑戦したことはあるかい?
――……。
君は、あの花々を見たいと思うかい? もしくは、本を? 君の先生たちが話すことを? とても注意深くそれらのことを見たことがあるかい? あれらの花々を? 先生たちが君に話されることを? 聞いているかい? そして本に集中したことがあるかい?
――時々。
時々。いつ、そういうことが起きるのかね?
――……。
君がそれらを好きなときかね?
――うん。
それじゃ、君がなにかを好きなとき、君の注意や、考え、エネルギーを向けるんだね?
――うん。
概してそれを「集中」と呼ぶんだよ。君は本に集中したり、あれらの花々に集中したり、君の友達や先生が話すことにもね。長いこと、なにかを集中して見たことがあるかい?
――わからないな。
いいよ、今、それをやってみるんだ。今やってみるんだよ。誰かが君に話していることに集中したり、あれらの花々を長いこと見てみたり。他のことを考えたりせずに。それが集中するということだよ。君のすべての注意を向けて、何かを聞いたり、本を読んだり、壁を通っていく何かを注意深く見たり……。それらをやってみるかい? そして、今やってみるかい?
――はい。やってみます。
そうかい。よし。【※続きはこちら→http://www.youtube.com/watch?v=W9g0J0IdkIQ】