古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

ノーベル文学賞に独作家ミュラー氏

「疎外された人々を描写」


 スウェーデン・アカデミーは8日、2009年のノーベル文学賞をドイツの女性作家ヘルタ・ミュラーさん(56)に授与すると発表した。
「濃密な詩と、散文の率直さにより、疎外された人々を描写した」ことが授賞理由となった。賞金は1000万クローナ(約1億3000万円)。授賞式は12月10日に行われる。
 ミュラーさんは1953年、ルーマニア西部バナート地方でドイツ系家庭に生まれた。父親は第2次大戦中、ナチス武装親衛隊で兵役を務め、母親は45年にソ連の収容所に連行された。ティミショアラ大学でドイツとルーマニアの文学を学ぶ間、チャウシェスク大統領の独裁に反発し、言論の自由を求める運動に参加。工場の翻訳者となったが、秘密警察への情報提供を拒んで解雇され、失職。こうした体験を作品に投影した。
 ルーマニアの小さなドイツ系社会における腐敗や不寛容、抑圧などを題材にした短編集「泥沼の世界」を82年に発表。ルーマニアでは検閲対象となったが、検閲前の版がドイツ語圏で高く評価された。84年には作風を危険視した当局がミュラーさんの国内での出版活動を禁止。このため、87年に夫と西独へ移住した。その後も「緑の梅の土地」(94年)などで独裁下の民衆の窮状を描いた作品を発表。ヨーロッパ文学賞など多くの文学賞を受賞した。日本では「狙われたキツネ」(92年)が翻訳されている。


読売新聞 2009-10-09