・陳凱歌(チェン・カイコー)監督 【8点】
カンヌ映画祭パルム・ドール大賞を受賞。既にご覧になった方も多いだろう。私は今回で2度目。最初に見た時と余りにも印象が異なったため、書き残しておく。
京劇『覇王別姫(はおうべっき)』とは『史記』に書かれている項羽と虞姫(ぐき)の故事「四面楚歌」を描いたもの。
私が初めてこの作品を見た時に感じたことは以下のページの所感と全く一緒であった。
・映画瓦版
前半の清々しさと、後半のおどろおどろしさは全く相反するもので、尻すぼみの印象が強かった。
6本の指があるため劇団への参加を拒否されるや否や、母親はその場で鉈(なた)をふるって我が子の指を絶つ。体罰を伴う過酷な訓練の中で助け合う子供達。二人の少年が耐えかねて脱走。彼等は京劇の観客席にもぐり込む。感動の余り、二人は涙を流し一人の少年はこう言う。「彼等はあれだけの演技ができるようになるまで、どれほど打(ぶ)たれたことだろう。俺は必ず京劇役者になるぞ!」(主旨)。小気味いいエピソードをふんだんに盛り込んで少年達は大人になってゆく。
厳しい訓練は現在でも変わらぬようだ。以下――
兄弟のようにして育った二人が大スターとなる。しかし、この二人は文化大革命と日中戦争という歴史によって翻弄される。彼等は普通の人間だった。裏切り、密告、そして衰え――。善意はしっぺ返しを食らい、悪意は逞しく大手を振って歩き回る。そこに少年時代の優しさは微塵もなかった。
一人は保身に走る弱い人間だった。もう一人は激情に身を任せ、わがままに振る舞う俳優となった。歴史が彼等に与えた結末は文字通りの“四面楚歌”であった。
だが、チェン・カイコーが彼等に注ぐ眼差しはどこか優しい。伝統芸能を支えてきたのは英雄ではなく、厳しい訓練に耐え抜いた普通の人間だった。それでも彼等には京劇しかなかった。彼等にとって生きるとは、舞台で躍ることだった。その一点だけは、時代がどれほど変わろうとも、彼等を変えることはできなかった。彼等は互いを裏切った。しかし、京劇を裏切ることはなかった。