古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

永田諒一、宮元啓一


 2冊読了。


 108冊目『宗教改革の真実 カトリックとプロテスタントの社会史』永田諒一(講談社現代新書、2004年)/今月後半の課題図書。完全な選択ミス。やっぱり読んでない本はダメだね。なぜ、プロテスタント魔女狩りに遭わなかったかを知りたかったのだが、全く触れていなかった。タイトルに難あり。「カトリックプロテスタントの風俗史」とすべきだ。資料的な価値はあるのだが、新書特有のわかりやすさが手抜きにつながっているような印象を受けた。


 109冊目『仏教の謎を解く宮元啓一(鈴木出版、2005年)/初心者向き。何冊か読んでいるが、この人の文章は面白くない。その上何の進歩も見られない。狭い世界でぬくぬくしているような印象を受ける。インドが肉食を脱した経緯を知りたくて読んだのだが及第点以下。

瞑想の世界を見ることができる情報機器/『ひとりっ子』グレッグ・イーガン

 SFの醍醐味は、科学技術が発達してもなお避けることのできない人間の苦悩を描き出すところにある。未来という舞台設定に映し出されているのは、現代社会が抱える人間の業(ごう)といっていいだろう。


 グレッグ・イーガンを初めて読んだ。短篇集である。文章がこなれているにもかかわらず、スッと物語に入ってゆけない何かがある。また「ルミナス」は数学的要素が濃厚で、知識がないと太刀打ちできそうにない。


「決断者」が断トツで面白かった。まるでクリシュナムルティの世界だ。バッチ(眼帯)という情報機器を着用すると瞑想の世界が見えるのだ。


 主人公は路上で見知らぬ男に銃をつきつけ、金目のものがないと見るやバッチを奪った。そのバッチには非合法のソフト「百鬼夜行」がインストールされていた。男は自宅へ戻るとバッチを着用した――

 そしておれは、なにが起きているかを理解した。〔【理解】のパターンがいくつも発火し、【パターン】のパターンがいくつも発火し、【混乱】、【圧倒】、【狂気】のパターンがいくつも発火し……〕
 発火プロセスの勢いがわずかばかり弱まった〔ここに含まれる概念すべてのパターンが発火する〕。(おれはこの状況を冷静に把握できる、おれはそれをやりこなせる)〔パターンが発火〕。おれはすわったまま頭を膝につけて〔パターンが発火〕思考を集中させ、じっさいには見えていない左目を通してパッチがおれに見せつづけている共鳴と関係性〔パターンが発火〕のすべてに対処しようとした。


【『ひとりっ子』グレッグ・イーガン山岸真編・訳(ハヤカワ文庫、2006年)以下同】


 心=脳内のシナプス発火が映像として見えているのだ。思考よりも深い位置にある情動(古い皮質)まで捉えている。思考はコントロール可能だが、本能をコントロールすることはできない。太陽の光も届かぬ深海に自我は根を下ろしている。

 そしてついにおれは見た、鏡に映ったおれの顔の上に重ねあわされているそれを。海底の発光生物のような、いりくんだ星形のパターンが、繊細な繰り糸を送りだして一万の単語やシンボルに触れていて――思考の全機構を意のままに動かしている。その存在に気づいたおれは、既視感を感じて驚いた。おれはこのパターンを過去数日間“見ていた”。自分自身を思考の対象者として、行為者として考えるたびに。意志の力について考えるたびに。もう少しで銃の引き金を引くところだった。あの瞬間を思いかえすたびに……。
 これが探していたものであることに、おれは疑いをもたなかった。【選択する自己】。【自由である自己】。


 視線が遂に自我の基底部を捉えた。「自由意志」を司っている部分だ。


 男はバッチを着けて、いつものように金品を強奪すべく街へ出る。拳銃を取り出し照準を見つめた時、「自由意志」が存在しない事実を発見した。【選択する自己】【自由である自己】は始めからいなかったのだ。


 これが「洞察による理解」であった。バッチは内なる世界を知覚させた。混乱や狂気を支えているはずの「私」は幻想にすぎなかった。

 おれは洞察が訪れる瞬間を、完璧な理解の瞬間を、世界の流れの外に足を踏みだし、ひとりで責任を引きうける瞬間を、待った。


 いやあ、まったくお見事。デネット著『解明される意識』とミンスキー著『心の社会』にインスパイアされたと書かれているが、クリシュナムルティの世界にも肉薄していると思う。


 視覚は外に向かっている。しかし我々は無限に膨張する宇宙を捉えきることはできない。それでも人間が知覚する情報は視覚が圧倒的な量を占めている(知覚の83%は視覚という説もある)。ヒトは第三次視覚野が発達しており、サルと比べると複雑な情報処理を行っているものと考えられる。我々はモノを見ると同時に、モノに付与された意味をも見つめている。つまり、概念操作が行われているのだ。


進化した視覚優位脳(中)


 視覚を司っているのが視覚野であれば、たとえ目が不自由であったとしても聴覚や触覚で「見る」ことは多分可能だ。そもそも我々は目を閉じて眠っている最中に夢を「見る」ことができるのだ。


 瞑想は集中ではなく注意である。日常生活だと集中が目で注意は耳である。五感をフルに働かせながら、五感の内側に深く沈む作業が瞑想である。クリシュナムルティは「思考を観察せよ」と教えた。


人間に自由意思はない/『脳はなにかと言い訳する 人は幸せになるようにできていた!?』池谷裕二


スウェーデン・モデルは成功か失敗か−福祉大国「素顔」を現地ルポ


 スウェーデンの教育は、私立も含めて小学校から大学院まで無料である。昨年、長男が小学校に入学したところ、教科書や教材はもちろん給食まで無償だし、個人が使うノートさえ支給された。コミューン(自治体)によっては、通学定期ももらえるという。(みゆき ポワチャ)

消費税率を上げても税収は増えない


 なぜ、憂慮すべきなのか。それは、消費税率を上げても税収は増えないからです。消費税はわずかに増えますが、所得税や法人税の税収が減るので、全体としては減ってしまうのです。(Wave of sound の研究日誌)

世界で一番、税金が高い国

 実質税金である健康保険や年金、失業保険などによる還元、食料品を始めとする非課税分野など複雑な要素を加味すると、日本はスウェーデンよりも高い税金を支払っていることになる。

リーマン破綻の影響、与謝野氏「ハチが刺した程度」

 自民党総裁選に立候補している5人の候補者は17日午前、島根県出雲市で街頭演説した。与謝野馨経済財政担当相は米証券大手リーマン・ブラザーズの経営破綻に関して「日本にももちろん影響はあるが、ハチが刺した程度。これで日本の金融機関が痛むことは絶対にない。沈着冷静な行動が求められる」と述べ、日本経済への影響は限定的との見方を示した。


【nikkei.net 2008-09-17】

ハチ発言を修正=与謝野氏


 与謝野馨財務・金融・経済財政相は26日、衆院財務金融委員会で昨年秋の米リーマン・ブラザーズの経営破綻(はたん)の影響について、「世界全体の不安の連鎖の広がりが私の想像以上だったことは素直に認める」と述べた。これまで、「ハチが刺した程度」としてきた認識を修正したもの。鈴木克昌氏(民主)への答弁。


時事ドットコム 2009-02-26】

麻薬で殺人に駆り立てられる少年兵

 二人と話をしているうちに、わたしはあることに気がつきました。
 二人の体に、ミミズ腫(ば)れのような大きな引っかき傷があるのです。
 最初は(ジャングルややぶの中でくらしていたのだから、木の枝とかで引っかいた時の傷なのかな?)と思っていました。でも、それらは自然にけがをしてついた傷ではありませんでした。
 ムリアの左まぶたのすぐ下に、三日月の形をした傷がありました。気になったわたしは、たずねてみました。
「その傷はどうしたの?」
「カミソリで切ったんだ」
「えっ、自分で? どうして?」
「カミソリで切って、そこに麻薬をうめこむんだ。うめこんでぬい合わせる。
 麻薬を入れられると、とても正気じゃいられない。殺したいと思った相手をすべて撃ち殺してしまうんだ。」
 子ども兵士たちが、麻薬を飲んだり、鉄砲の弾につめられた火薬を飲んでいるという話は聞いたことがありました。
 でも、まさか体に傷をつけてうめこんでいるなんて話は今まで聞いたことがありませんでした。
「だれにやられたんだい?」
「最初は戦いに行く前に大人の兵士にやられたんだ。
 使うのは細かい粉にした麻薬だよ。ここでは麻薬はどこででも手に入るし、お酒よりも安いからみんな使っていた。」(中略)
「麻薬をうめこまれると、もう頭の中がグルグルになって何がなんだかわからなくなる。
 そしてものすごく人を殺したくなる。だれを殺すのも怖くなかったし、自分が死ぬことも怖くなかった。なんの感情もなく、急にただ殺したいって思うようになるんだ。」


【『ダイヤモンドより平和がほしい 子ども兵士・ムリアの告白』後藤健二汐文社、2005年)】


ダイヤモンドより平和がほしい―子ども兵士・ムリアの告白

ダウ理論

 ダウは、トレンドを大きく3種、すなわち主要トレンド、二次的トレンドと小トレンドに分類した。彼の主たる関心事は、主要トレンドであり、これは通常1年以上、ときには数年間継続する。ほとんどの株式投資家にとって最も重要なのはマーケットの主要な方向性であるというのが彼の信条であり、彼は三つのトレンドをそれぞれ海の潮、波、波紋になぞらえている。
 主要トレンドは、潮に対する。二次的トレンドは潮によって作られた波にたとえられ、小トレンドは、波の波紋のようなものである。断続的に打ち寄せる波の最高到達点を杭で測定することで、潮の方向の測定が可能となる。仮に寄せる各波が、前の波よりさらに岸まで寄せるようであれば、依然として満潮である。波が退き始めて初めて、干潮に変わったことを知ることとなる。
 二次的トレンドは主要トレンドの調整局面とみなされ、通常3週間から3カ月間継続する。調整は、通常前段階のトレンドの1/3から2/3の戻しとなり、しばしば、半分つまり50%に及ぶ。
 小トレンドは、継続期間3週間未満で、2次トレンドの短期的な調整とみなされる。


【『先物市場のテクニカル分析』ジョン・J・マーフィー/日本興業銀行国際資金部訳(金融財政事情研究会、1990年)】


先物市場のテクニカル分析 (ニューファイナンシャルシリーズ)

ナット・ターナーが反乱を起こした日


 今日はアメリカの奴隷ナット・ターナーが反乱を起こした日(1831年)。ヴァージニア州ののサザンプトン郡で白人約60人を殺害した。ナットは若い頃から読み書きができ、信仰心も篤かった。白人によって母親、姉妹をレイプされ、親兄弟がリンチされていた。啓示を受けて蜂起。31歳で縛り首に。


ナット・ターナーの告白