古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

街の変化から時代を読み取るフィールドワーク/『タウン・ウォッチング 時代の「空気」を街から読む』博報堂生活総合研究所

 街を楽しもうというコンセプトで編まれた“マーケティング街論”とでも言うべき書物だ。発行は1985年となっているから、バブルの絶頂期に突っ込む前の、街の変化が際立った頃(カフェバー・ブーム等)にはタイムリーな1冊だったのであろう。街の観察の仕方から、人の流れる構造、経営論・時間論など盛りだくさんの内容となっている。なんと言ってもネーミングが絶妙だ。お家芸健在の感あり。


 前著『「分衆」の誕生 ニューピープルをつかむ市場戦略とは』(日本経済新聞社)を踏まえ、価値観の多様化に伴い、モノを売る側が非常に読みにくくなったマーケットの状況を示す。分衆が人と同じモノを嫌う嗜好があることに着目し、入りにくい店ほどはやる現象を紹介。通りがかりの客を拒否する店が一部の人々から圧倒的な支持を受けるという秘密結社的なムードが面白い。店が客を選ぶといった雰囲気が、選ばれた客の自己満足を煽る効果が見られる。


 入りにくい、との条件には当然ながら街外れという要素も含まれる。街外れの定義付けが試みられているが、これが実に鋭い。「現代の大都市の『街外れ』とは、内側に盛り場を抱え込み、外側に住宅地を背負った中間地帯」(46p)のことであり、そこには「盛り場には欠かすことのできない『盛り場のバックアップ施設』と、普段そこで生活している人たちに利用されている『住宅地関連施設』が集まっているはず(同頁)」と指摘。盛り場のバックアップ施設とは「氷屋・おしぼり屋・酒屋・ラブホテル・駐車場など」(同頁)で、同じく住宅地関連施設とは「米屋・豆腐屋・床屋・クリーニング店など」(同頁)を指す。故に、街外れとは床屋・クリーニング店などが目印となると言及。更に具体的には、街の中心から半径600メートル以降の範囲であることを渋谷を例に証明してみせる。こうした街外れに存在する店を「600メートルショップ」と名づけ、若者に人気がある店の隣にはクリーニング店があるとまで言う。まあ、こうなってくると「○○の法則」みたいで少々鼻白んでしまうが……。


 呼吸する街をフィールド・ワークした斬新な視点からの提案は傾聴に値する。今まで見えて来なかった街の顔が現れてくる。多少古い本だが、その発想法は現代でも充分生かせる。