古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

新大久保

 世の中には「誰それの息子」でしかない人間とか、「どこどこ大学卒」以上でも以下でもない人間みたいなものがたくさんいるが、新大久保も似たようなもので、もしこの街が新宿の隣でなかったら、新大久保は、新大久保でもなんでもない。
 たとえば、新大久保は、ラブホテル街であり、ホテトルの事務所が集中している地域であり、アジア・アフリカ系不法就労者たちの一方の拠点であり、業界的に言えば、意外なほどにソフトハウスの多い土地柄であったりするのだが、このうちのどれも「新宿の隣」ということと無縁ではない。
 これは、街というものの生成と発展にとって大変に不幸なことだ。「何をやっても長嶋の息子」というような状況は、本人にとっては楽なことではない。


【『山手線膝栗毛』小田嶋隆ジャストシステム、1993年)】


山手線膝栗毛