古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

見田宗介


 1冊挫折。


 挫折15『現代社会の理論 情報化・消費化社会の現在と未来見田宗介〈みた・むねすけ〉(岩波新書、1996年)/まったく酷い文章だ。「はじめに」で挫けた。著者は東大大学院教授である。とにかく余計な言葉が多い。そして長い文章の後で否定形が出てくる。金輪際、見田の著作を開くことはないだろう。

松藤民輔の中国批判/『無法バブルマネー終わりの始まり 「金融大転換」時代を生き抜く実践経済学』松藤民輔

 松藤民輔が中国とロシアをこき下ろしている。世界を飛び回って商売をしているだけあって、その視点は確かだ。きっと、人口が多過ぎて、展望を持つことが難しいのだろう。そして中国政府は正確な人口すら掌握していないことだろう。

 中国は、つまるところ労賃の安さだけが取り柄の国家だったのである。およそモノづくりをする資格などない。
 モノづくりにはとりわけ、高いモラルが要求されるのだが、人が見ていないところでは手抜きをし、でたらめな商品をこしらえてなんとも思わない資質には呆(あき)れるほかない。
「ゴルフというスポーツが定着しない国家にはマナーは育たない」
 というのがわたしの持論なのだが、奇(く)しくもこれがもっとも当てはまるのが中国なのだ。


【『無法バブルマネー終わりの始まり 「金融大転換」時代を生き抜く実践経済学』松藤民輔講談社、2008年)以下同】

 中国という国家は体質的に、伝統的に、特許、技術、著作権等々の保護などまったく考慮しない。コピーや海賊版の比率は15〜20パーセントもあり、GDPの8パーセントにも相当するから、もはや一大産業だ。国際条約や協定を締結したところで、「上に政策あれば下に対策あり」で、わからないようにやればいいという体質なのだ。


 経済は川の流れのように、高いところから低いところへと流れる。グローバリゼーションの波はカントリーリスクを抱えながらも、価格競争という流れを止めることはない。


 だが、中国は低過ぎた。経済の流れは沼さながらに停滞し、澱(よど)んでいる。中国政府は外貨を獲得するためとあらば、国民をいかなる悪臭にもさらすのだ。そして、最大のリスクがこれ――

 中国の人民解放軍においては、1980年代に100万人、90年代に50万人、さらに2005年末までに20万人を削減してきた。「軍の近代化」の一環ではあるが、こうして軍人のリストラが進んだ結果、失業して生活に困窮する退役軍人たちが続出している。リストラされた退役軍人が生活の保障を求めて各地で立ち上がり始めており、軍歴を持たない胡錦濤国家主席が、この事態に解決策を見出せるかはまったく不明である。これこそ、中国が抱えるリスクでは最大の危機になるのかもしれない。


 独裁政権というのは、必ず軍隊がバックアップしている。当然ながら、リストラされた同僚に対する共感も生れていることだろう。不満がくすぶっていれば、引火するのは時間の問題だ。


 個人的には、中国がいいように利用されている側面もあるように思っている。アジアにはリーダー国が存在しない。文化や宗教も異なる。中国やインドに至っては多民族多言語国家である。モラルを欠いてしまえば、手の組みようもないだろう。問題は結局、教育に行き着く。


ジニ係数から見えてくる日本社会の格差/『貧乏人のデイトレ 金持ちのインベストメント ノーベル賞学者とスイス人富豪に学ぶ智恵』北村慶

 ジニ係数という言葉は聞いたことがあったが、その意味を知ったのは金森重樹著『1年で10億つくる! 不動産投資の破壊的成功法』(ダイヤモンド社、2005年)を読んでからのこと。ただ、それ以降は大した気にも止めていなかった。


 本書では、更に詳細な解説があり、これには目を瞠(みは)った。一挙に紹介する――

 ところが、1984年の調査以降、ジニ係数は上昇に転じています。


【『貧乏人のデイトレ 金持ちのインベストメント ノーベル賞学者とスイス人富豪に学ぶ智恵』北村慶〈きたむら・けい〉(PHP研究所、2006年)以下同】


ジニ係数

 ただし、ジニ係数は、ローレンツ曲線の形には関係なく、面積で決まります。このため、ジニ係数が同じ値の国があったとしても社会構造が全く異なる、ということもありえます。
 例えば、7割の格差のない均質な市民層と3割の所得がゼロの貧困層からなるA国と、一人の王様が全体の3割の所得を保有し残り7割を国民が平等に保有するB国について、それぞれジニ係数を計算すると、いずれも0.3となるのです。
 このように、ジニ係数だけから社会構造や所得格差をイメージすることは難しいのですが、一つの方法として、その社会の階層が2つに分かれていて、その階層内では所得が均一である、と仮定する方法があります。
 こうした仮定を置けば、ジニ係数0.5とは、「上位4分の1の所得者が、全ての所得の4分の3を得ている社会」を意味することになります。
 地球上全体のジニ係数は0.707であり、この仮定の下では、「“宇宙船地球号”とは、人口の14.7%を占める集団がGNPの85.3%を保有しており、この集団と残りの集団の間には、34倍の所得格差がある社会である」と言えることになります。


ジニ係数

 一方で、ジニ係数は低ければ低いほど良い、というものでもありません。
 所得の再分配を完全に平等な社会にしてしまうと、誰も努力しなくなる、いわゆるフリー・ライダー(タダ乗り)が増えることになるからです。
 これでは、社会に活力が失われ、経済発展も停滞することになります。
 一般には、ジニ係数で0.3前後の社会が、「適度に競争があり、かつ、格差が広がっていない」という意味で適度な格差水準の社会と言われています。


ジニ係数による所得水準の評価


ジニ係数 意味合い
〜0.1 極めて平等な社会。現実には存在しがたい。
0.1〜0.2 ほとんど格差がない社会。個々人の努力を阻害する懸念がある。
0.2〜0.3 格差が少なく安定した社会。
0.3〜0.4 格差がある社会。競争・活力という面からは好ましいこともある。
0.4〜0.5 格差がきつく、社会を不安定にする要素がある。
0.5〜 不平等な社会。さまざまな問題が生じやすい。

 OECD経済協力開発機構)では、「その国の所得の上位10%の人々が、所得の下位10%の人々の何倍の所得を得ているか?」についても試算しています。
 これによれば、日本においては「社会の上位10%の富裕層」が「下位10%の層」の実に4.9倍の所得を得ていることになっています。
 これは、「貧富の差が激しい社会」の代表例のように言われるアメリカの5.4倍とさほど差がない数字です。

 OECDのレポートには、さらにショッキングな分析があります。
 日本の「貧困率」の高さが、なんと第5位にランクされているのです。
(※「相対的貧困者」=社会の真ん中に位置する人が得ている可処分所得の50%以下しか可処分所得がない人、の人口比)


国の所得格差順リスト
世界各国をジニ係数順に並べてみた
ジニ係数と相対的貧困率
総務省統計局:全国消費実態調査トピックス 日本の所得格差について


 で、気になる日本のジニ係数だが、2003年時点で何と「0.5」(「飛語宇理日記」による)。ということは、「格差がきつく、社会を不安定にする要素がある」と「不平等な社会。さまざまな問題が生じやすい」の中間に位置していることになる。


 富の偏在。ま、そりゃそうだよな。恒久減税である定率減税を廃止して、減額した法人税は据え置いているのだから。つまり、政治的不作為というよりも、政治が格差へ誘導したと言ってよかろう。極端な集中が国家を崩壊させる


 小泉政権が行った規制緩和こそ、富の偏在を生んだ最大の原因であろう。それにしても、富はどこに偏っているのだろう? 私の財布にないことは確かだ。多分、オリックスの宮内義彦のところだ。


格差を縮めたブラジルのチカラ
株式有料情報の手口/『本当にあった嘘のような話 「偶然の一致」のミステリーを探る』マーティン・プリマー、ブライアン・キング