古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

ディー・ブラウン、セネカ


 1冊挫折、1冊読了。


 挫折13『わが魂を聖地に埋めよ アメリカ・インディアン闘争史』ディー・ブラウン/鈴木主税訳(草思社、1972年)/良書と思われるが、フォントが小さ過ぎる。8ポイントか。また、資料的要素が強く、読み物としてはイマイチと判断した。30ページくらいで挫ける。


 40冊目『人生の短さについてセネカ/茂手木元蔵〈もてぎ・もとぞう〉訳(岩波文庫、1980年)/森本哲郎著『生き方の研究』で紹介されていた一冊。これほど面白いとは思わなかった。セネカはイエスと同時代を生きた。ギリシア哲学ストア学派の代表選手。ネロを支えた政治家であった。現代の政治家でこれほどの思索を為す人物が果たしているであろうか。文明の発達は、思想を退化させるのかも知れない。

「子ども110人殺害」したナイジェリアの呪術医を逮捕

 ナイジェリアの警察は、テレビのドキュメンタリー番組で「悪霊に取りつかれた」子ども110人の殺害を明らかにした男を逮捕した。当局者が3日に発表した。
 男は「呪術医であることは否定しないが、私が殺したのは子どもらではなく患者の中にいる魔女だ」などと話しているという。
 人権活動家らは、悪霊に取りつかれた子どもが離婚や病気などの災いをもたらすと親を説得し、悪魔ばらいをして金を取ろうとするいかさま牧師や呪術医がナイジェリアの一部地域にいると指摘していた。両親から引き離された後、人身売買組織に引き渡された子どももいるという。


【ロイター 2008-12-04

ガンビアで魔女狩り横行、幻覚液で死者も アムネスティ

 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは18日、アフリカ西部の国ガンビア魔女狩りが横行し、1000人あまりが捕らえられて幻覚を起こす液体を飲まされていると伝えた。
 液体を飲まされた人のうち少なくとも2人が死亡、多数が深刻な腎臓障害を起こしているほか、暴行を受けてけがをした人もいるという。アムネスティガンビア政府に対し、直ちに魔女狩りをやめさせるよう要求した。
 アムネスティは同国のジャメ大統領の関与も指摘。親類の死に魔女がかかわっていると信じた大統領が、呪術医を呼び寄せたとの報道もあるという。魔女の疑いをかけられ連行された被害者や家族は、呪術医が警官や兵士を連れてやって来て、銃を突きつけられ連行されたと証言している。
 大統領選に出馬したこともある野党の有力議員は魔女狩りの実態について調べていたが、今月に入って身柄を拘束された。アムネスティは、同議員が拷問を受ける恐れもあると指摘している。


【CNN 2009-03-19】

辛淑玉による公明党批判/『怒らない人』辛淑玉

 根本的に勘違いしている主張のオンパレードだが、公明党批判は的を射ている。例えば、浜四津敏子代表代行についてこう書いている――

 たとえば、盗聴法に反対して闘っているとき、公明党浜四津敏子代表代行は、集会で最初わたしの傍で威勢良く反対を叫んでいた。その筋の通った内容だけではなく、権力に対峙するその姿勢が何よりもかっこよかった。
 私はそれがうれしかったし、ほんとうに期待していたのだ。(中略)
 ところがその翌日、公明党は何の説明もなく、反対を撤回したのだ。敵の本丸から自民党の強者たちがずしりと動き出したとたん、あっという間に方針転換して、浜四津氏は盗聴法反対の戦列から消え去ってしまった。
 当初、鮮烈な反対の声をあげていた彼女の姿は、一般の人々の脳裏に焼きついただろう。「ああ、やっぱり公明党は庶民の味方、正義の味方なんだ」と。
 しかし、党としての実態は決してそうではなかった。
 私には、いまでも、それが彼女自身の意思だったとは思えない。というのも、その後自民党の右傾化した議員たちによる男女共同参画つぶしの嵐が吹き荒れたとき、体を張って女性の側につき、女性の人権を守ろうとしたのは浜四津氏だったからだ。


【『怒らない人』辛淑玉〈しん・すご〉(角川oneテーマ21、2007年)】


 抑制された筆致が、節度ある批判となっていて好ましい余韻を残す。辛淑玉浜四津敏子を信頼すればこそ、書かずにはいられなかったのだろう。組織型政党は個人の自由を奪う傾向が強い。政策は是々非々で論じるべきものであると思うが、政党政治は結局のところ、党利党略を優先して大を取って小を無視するようになりがちだ。


 公明党に関しては、与党入りすることで独善的な宗教政党から成熟段階に入ったと見ることもできる。とはいうものの、本質的にはキャスティングボートとしての存在感しか評価されていない。仏教思想の「中道」もまったく生かされておらず、論語の「中庸」的な中途半端さが目立っている。


 国民政党を目指すのであれば、創価学会と距離を置くことが望ましいと考える。


記録の様相/『DNAがわかる本』中内光昭

 昨年読んだが、紹介するのを忘れていた。全体的には底が浅い印象を受けた。ま、DNA入門といってよい。


 DNAは記録である。では記録とは何か。その様相を著者はこう綴る――

 従来、人間世界で使われるシナリオは紙にインクなどで書かれてきました。今ではフロッピーディスクに電子の言葉で書いてあるシナリオもあるでしょう。一般に、情報を記録する場合、“違い”を利用して記録するのが普通です。白紙がもっている情報は少ないですが、インクなどにより部分的に色が違ってくると(字や絵が書かれると)、さまざまな情報を記録することができます。レコードやCDの場合は、溝の変化や凹凸という“違い”を利用して情報を記録しています。利用する“違い”はいろいろでも、紙や合成樹脂といった何かを基盤にして、それに情報を記録する点では共通です。では、生物はどのような基盤物質に情報を記録しているのでしょうか?
 シナリオが核の中にあるとすれば、核には膨大なシナリオを記録するため、用紙(基盤)のはたらきをする物質が多量に存在するはずです。調べてみると、核の主要成分は、生物の種類を問わず、「蛋白質」と「核酸」とよばれる二つの物質であることがわかりました。基盤物質は蛋白質か、核酸か、またはその両者か、ということになります。


【『DNAがわかる本』中内光昭(岩波ジュニア新書、1997年)】


 これは卓見。違いの肯定。違いが多様性を生む。そして豊かな多様性は、ある共通性に貫かれている。多種多様な動物の種類はDNAの記述が異なっている。しかしながら、DNAを持つという点では共通している。


 DNAは「生命のシナリオ」と言われるが、そこにはあらかじめ運命が記録されているわけではなく、「蛋白質のつくり方に関する情報」が記されている。DNAは、人生という物語の台本ではない。


宗教と言語/『宗教を生みだす本能 進化論からみたヒトと信仰』ニコラス・ウェイド