古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

木村敏


 1冊読了。


 141冊目『異常の構造木村敏〈きむら・びん〉(講談社現代新書、1973年)/微妙。私の手元にあるのは1983年発行の14刷。思考、文章は極めて明晰。しかし如何せん内容が古い。統合失調症について存在論的アプローチを試みているのだが、その病因を現在では否定されている家庭環境にありとしている。論の進め方も荒っぽい。宮本省三の本を初めて読んだ時と全く同じ印象を受けた。微妙と書いたのは、当時の医学常識のせいか、あるいは木村が才走っているのかが判断しにくいためだ。思想構築のために患者を利用しているような気がしないでもない。

民主主義の新しい革命的な技法=合意のでっちあげ

 これは3歳の幼児に一人で道路を渡らせないのとまったく同じ理論である。誰だって3歳の幼児にそんな自由は与えないだろう。3歳の幼児はその自由を適切に扱うすべを知らないのだ。それと同じように、とまどえる群れも行動に参加させるべきではない。面倒を起こすに決まっているのだから。
 そこで、とまどえる群れを飼いならすための何かが必要になる。それが民主主義の新しい革命的な技法、つまり「合意のでっちあげ」である。メディアと教育機関と大衆文化は切り離しておかなければならない。政治を動かす階級と意志決定者は、そうしたでっちあげにある程度の現実性をもたせなければならず、それと同時に彼らがそれをほどほどに信じこむようにすることも必要だ。


【『メディア・コントロール 正義なき民主主義と国際社会』ノーム・チョムスキー鈴木主税〈すずき・ちから〉訳(集英社新書、2003年)】


メディア・コントロール―正義なき民主主義と国際社会 (集英社新書)

丸山健二が生まれた日


 今日は丸山健二が生まれた日(1943年)。23歳で芥川賞を受賞。賞や文壇のような文学界とはほとんど関わりを持たずに執筆を続けており、中央文壇とは離れたスタンスと現代都市文明への批判的視座にある力強い生き方から「孤高の作家」とも形容される。


夏の流れ (講談社文芸文庫) さすらう雨のかかし 水の家族 まだ見ぬ書き手へ (朝日文芸文庫)