国立がん研究センター(東京都中央区、嘉山孝正理事長)は4月14日、医療者が使っている個人線量計を福島第1原子力発電所事故の避難区域の住民らに配布し、個々の積算被ばく量を測定するなどの提言を発表した。提言は国と福島県に対するもので、放射線に対する不安を解消するのが狙い。嘉山理事長は「見えない放射線が見えるようになる。納得できることが重要だ」としている。
個人線量計(ガラスバッジ、フィルムバッジ)は、放射線を扱う医療者が積算被ばく量を確認するために用いている。襟元などに装着し、定期的に事業者に回収され、測定結果が報告される。同センターによると、国内メーカーは4社あり、計44万人分を生産。現時点で約2万人分を用意できるという。
同センターは、避難区域の若年層を中心に、福島県在住者に配布することを提言。1回当たりの測定費用は3000円程度といい、2万人を対象に1年間で計4回の測定を行う場合、約2億4000万円の財源が必要との試算を示している。同時に、定期的に健康診断を行う必要性も指摘し、健診費用の支援も提案。一方、内部被ばくについては、全身被ばくカウンターや甲状腺シンチレーションサーベイメーターで測定することとしている。
嘉山理事長は同日の記者会見で、1回被ばく量が100ミリシーベルト以下の場合は、健康への影響が生じるとのエビデンスはないとした上で、「屋外にいた時間などでも被ばく線量は変わり、自分がどのくらい被ばくしたかが分からない。この方法なら、テーラーメードでリスクを診断できる」と意義を強調。今後、放射線医学総合研究所(放医研)や放射線影響研究所(放影研)、関係学会などと連携し、準備を進めたいとした。
このほか、同センターが3月にまとめた見解で、原発作業員の自己末梢血幹細胞の採取、保存を提案したことに関し、「職場環境の被ばく線量が250ミリシーベルト以下であれば、必要ない」と改めて説明。その上で、基準を超えた場合の対策として、自己末梢血幹細胞移植の有効性を訴えた。