古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

『香月泰男のおもちゃ箱』香月泰男、谷川俊太郎

 画家・香月泰男〈かづき・やすお〉が“余技”で作ったブリキ作品の数々。ところどころに谷川俊太郎の詩が添えられていて、何とも優しい心地になってくる。


 これは傑作である。どこにでも転がっている材料で、誰にも真似のできない世界をつくり上げてみせた。ブリキや木の単純なラインが、信じ難い豊かさを表している。





 どのページを開いても楽しい。多分、香月氏本人が楽しみながら作ったのだろう。人も動物も躍動している。


 婦美子夫人の手記によれば、最初に作ったのは十字架に磔(はりつけ)となったキリスト像だった。84ページには、「ピエタ像」とおぼしき作品がある。ブリキの放つ光は、高価な純銀にも劣らぬものだ。


 最後に、谷川俊太郎の名調子を紹介しておこう――

 象は自分が大きすぎるとは
 思っていない
 ペンギンは自分が飛べないのを
 嘆かない


 ヒトだけだ
 不平に不満に不安に不幸
 自分を不の字で飾りたてるのは


 だが生きとし生けるものの
 それぞれの姿が
 それぞれに美しいと
 知っている人は


 畏れとともに
 喜びとともに
 神のわざを
 真似る


 香月泰男という“神”が創り出した世界は、実に楽しく、愉快だ。石井美千子以来の衝撃を受けた。