サイムは彼が持っていたステッキで道路の敷石(しきいし)を力いっぱいたたいて、
「まじめって何のことなんだ」と叫んだ。「この街がまじめだろうか。あの支那風の提灯がまじめだろうか。この世界全体がまじめだろうか。ここにきてああだこうだとしゃべくって、たまにはほんとうのことをいうのもいいが、こういうおしゃべりのほかに、何かもっとまじめなもの、それは宗教でも、酒でもかまわない。何かそういうものを自分の奥底に持っていない人間は、僕は軽蔑するんだ」
【『木曜の男』G・K・チェスタトン/吉田健一訳(創元推理文庫、1960年)】
(※左が旧訳、右が新訳)