ニューロンのスピードは時速400キロ/『12番目のカード』ジェフリー・ディーヴァー


 リンカーン・ライム・シリーズの第6作。やや失速感があるのは否めないが、「家族の物語」として読めば、ぐっと味わいが深くなる。少々難しいのは、狙われる黒人少女の家族と、犯人の家族とが共に二層構造となっているためだ。虚像と実像、理想と現実が交錯するため一筋縄でいかない。


 ジェフリー・ディーヴァーの魅力は、ストーリーもさることながら、最新の科学や技術にまつわる情報が盛り込まれているところにある。

 それはまさしく奇跡だ。
 脳のどこか、あるいは体のどこかで、心的または肉体的な刺激――“グラスを持ち上げたい”“指を火傷しそうだから鍋を下ろさなくては”――が発生する。その刺激は神経インパルスを生み、インパルスは神経細胞ニューロン)からニューロンへと手渡されて全身に伝達される。インパルスは、人々の多くが考えているのとは違い、電流そのものではない。ニューロンの表面の電荷がほんの一瞬だけ正から負に変わるときに生まれる波だ。インパルスの強さはつねに一定で――存在するかしないかのいずれかしかない――時速およそ400キロという驚異的なスピードを持つ。
 このインパルスが目的地――筋肉や腺や臓器に到達すると、それらが反応して、心臓は鼓動し、肺は空気の出し入れをし、体は踊り、手は花を植えたりラブレターを書いたり、宇宙船の操縦をしたりする。
 まさしく奇跡だ。


【『12番目のカード』ジェフリー・ディーヴァー(文藝春秋、2006年/文春文庫、2009年)】


 そして、リンカーン・ライムが事故に遭った場面に触れている。だが、ライムは本作で、コンピュータを駆使した筋肉エクササイズに励んでいる。もちろん四肢は麻痺したままで動かないのだが、電気刺激を与えることで事故前の筋力を取り戻している。


 過去の作品と比較するとご都合主義が目立つものの、リンカーン・ライムと再会できる喜びに比べれば、どうってことはない。


12番目のカード〈上〉 (文春文庫) 12番目のカード〈下〉 (文春文庫)