16世紀中葉、スペイン人キリスト教徒が書き遺した類まれな世界史記述。コロンブスが記した「航海日誌」を読み解きながら、「発見」された民の人間的資質を浮彫りにし、同時に、彼らを裏切りその地を壊滅させてゆく「毒草の種」を導入した彼の責任を追及する。
第二次航海でエスパニョーラ島に到着したコロンブスが、自然の道理と人間の法に背いてはじめた事業の本質が問われる。キリスト教徒にインディオを分配するというインディアス全体を荒廃させる制度の創案者となるコロンブス兄弟の「無知盲目」の芽を筆者は見逃さない。
コロンブスの帰国中、エスパニョーラ島では島民収奪が本格化するが、スペイン人同士の内紛も激化する。彼は第三次航海ではじめて大陸(ベネズエラ北岸)に接触、島に帰着後は島内の混乱を収束しようとするが果たせず、新任の査察官によって本国に送還される。
1501年に始まる10年間を扱うこの第2巻は全3巻中特別の位置を占める。1502年に着任した新総督は、征服戦争を拡大し、島民の分配をエスパニョーラ島全域に拡げてゆく。彼らが被った悲惨さが、現場に立ちあった人間ならではの筆致で明るみに出される。
エスパニョーラ島の破壊が進行する中で感覚麻痺に陥った植民者を糾弾してゆく修道士たちの動きを追い、本国ですすめられた法整備とその問題点を追究する筆者は、他方で従軍司祭としてキューバ島征服の露払いとなったかつての自分の役割を総点検してゆく。
分配された土地と住民を返上し、インディオ救済を目ざして本国に赴いた司祭ラス・カサスが対峙する最強の相手は国王の顧問会議であった。その彼らが征服戦争を正当化すべく作成したインディオ向けの勧降文を筆者が歴史家として全面的に批判するくだりは圧巻である。
エスパニョーラ島でおこった生き残りの島民たちによる「正義のたたかい」で幕を開け、つづいて、平和的な布教を可能にする空間をベネスエラ北岸に確保しようとして身を挺する司祭ラス・カサスのねばり強い運動と、それが挫折してゆくプロセスが再現される。