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東日本大震災:2日前のプロポーズ 「はい」と言えず…

 東日本大震災で被災し、宮城県南三陸町の県立志津川然の家に避難している成沢公子さん(34)は、行方不明の自動車販売店勤務の男性(52)と再会する日を待ち続けている。離婚歴がある二人。震災の2日前にプロポーズされ、新たな人生を歩もうと誓ったばかりだった。成沢さんは3人の子供を抱えるが、病院事務の仕事も失った。「自分の半分がなくなってしまった感じ」。心の空洞が広がるのを止められない。


 成沢さんは3月9日、自宅で男性と会っていた。以前からの知り合いで、離婚後に付き合い始めて2年。お互い口に出さなくても次のステップを意識していた。この日、男性はいつもと変わらなかったが、帰ろうとした時、玄関で体を引き寄せられた。耳元で「老後は一緒にいようね。おれが守るから」と告げられた。成沢さんの答えは「またそんな期待させるようなこと言って」。照れ隠しで真剣に答えなかった。顔を見て話した最後の会話だった。


 震災から約1カ月たっても成沢さんの自問自答は続く。「あの日『はい』と言えなかった。言っていたら何か変わっていたかな」


 つらくなると携帯電話のメール画面に目がいく。地震直後の11日午後2時50分の受信メールは「地震大丈夫?」と成沢さんを心配する内容だった。「大丈夫じゃない。怖い」と返信すると、自宅にいる両親の様子を見てくると伝えてきた。その後も「大津波警報が出たから、海に近づかないで」と送信してきた。午後3時57分に「両親は大丈夫?」と尋ねて以来、返信はない。


 助かった男性の両親によると、男性は自宅に立ち寄った後、会社に戻ったという。今月中旬、男性の乗用車が会社から約100メートル離れた川の縁でつぶれた状態で見つかった。行方不明者届を出したが手掛かりはない。


 成沢さんは「うそ。絶対(私を)置いていくはずがない」と自分に言い聞かせる。両親に男性の存在を打ち明け、互いの子供たちと一緒に暮らそうと決断した。その直後だけに「自分の中の半分がなくなってしまった感覚」が膨らんでいく。


 病院も被災し、失業した。「子供がいるからしっかりしなきゃ」と奮い立たせても落ち込むことを繰り返す。気持ちが沈むと、男性が「おれが守る」と言った声がよみがえる。そして少しだけ顔を上げられる。「ある日『連絡取れなくてごめんね』と会いに来るって信じられるの」


毎日jp 2011-04-25