テロリストの心象風景

「どう言えばいいんだ、アミーン。おそらく最古参のテロリストでさえ、自分たちの身に何が起きたかなんてわかっていないよ。そしてこれは誰の身に起きてもおかしくないことなんだ。潜在意識のどこかでスイッチが入ると、それですべてが動きだす。動機の温度差もまちまちだが、大抵はちょっとしたことがきっかけだ。こんな具合に」と言いながら彼は指を鳴らす。「さもなければ、思いがけない災難のように降りかかってくるか、寄生虫か何かのように心のなかにとりつくのかもしれない。それを境に、二度と世界は同じように見えなくなる。一つの固定観念の他は何も考えられなくなる。自分の心と身体を占拠したものを引き剥がし、その下にあるものを見なくてはいけない、という考えだ。そうなると、後戻りもできない。そもそも、決定をくだすのはもう本人ではない。当人は自分の頭で考えたことをおこなっていると信じこんでいるが、それは真実ではない。自分自身のフラストレーションに振りまわされる道具になりさがっている。そういう人物にしてみれば、生きることも死ぬことも、同じなんだな。以前のような生き方を、どこかで永遠にあきらめたということだ。別の次元を生きているんだ。宇宙人だよ。天国の手前で天女(フーリー)と一角獣を追いかけて暮らしているのさ。この世界のことなど耳に入っちゃいない。ただひたすら、一歩を踏み出すその瞬間を待っている。失ったものを取り返し、あるいは過去のまちがいを正すには、それしかないと思いこんでいる――端的に言えば、みずから聖人になるただ一つの方法、それが華々しく散るということなんだな。スクールバスに飛びこんで人間花火を上げるか、人間魚雷になって憎い敵の戦車に猛スピードで突っこむかだ。どかーん! 殉教者になるための一本勝ちだよ。本人にしてみれば、柩が運び出される日こそ自分の評判を高める唯一の機会だ。それ以外の日は、前もあともどうでもよくて、そもそも目に入っちゃいない。なかったことになっている」


【『テロル』ヤスミナ・カドラ/藤本優子訳(早川書房、2007年)】


テロル (ハヤカワepiブック・プラネット)