米ワシントンD.C.(Washington D.C.)で開催された米国科学振興協会(American Association for the Advancement of Science、AAAS)の年次会合で19日、強い太陽風によって人工衛星や電子機器が故障し、数週間から数か月も停電が続くような事態になる恐れがあると専門家たちが警鐘を鳴らした。
日本時間15日午前10時56分、過去4年で最大の大規模な太陽フレアが発生し、放出されたプラズマ粒子が、秒速900キロの速度で地球に向かった。フレアは最大規模の「Xクラス」で、地球ではオーロラが発生したほか、一部の無線通信で障害が生じた。しかし今回影響を受けたのは、おおむね北半球に限られた。
太陽は今後11年間、活発に活動する時期に入ることから、15日に発生したものと同様の磁気嵐が再び地球を襲う恐れがあるという。人工衛星システムによるコンピューター機器の同期や航空管制、通信ネットワークなど、ハイテク機器への依存を深める現代社会は、宇宙天気にますますぜい弱になっており、大混乱に陥る可能性もあると専門家たちは指摘している。
GPSや電力網に大きな影響も
「『もし起こるとしたら』という問題ではなく、『いつ』『どれくらいの規模で起きるか』という問題だ」と、米海洋大気局(US National Oceanic and Atmospheric Administration、NOAA)のジェーン・ルブチェンコ(Jane Lubchenco)局長は語る。「前回の太陽周期の極大期は約10年前で、そのときの世界はいまとは非常に異なっていた。当時も携帯電話はあったが、現在ほど広くは使われてはいなかった。今、携帯電話はあらゆるところにある」
欧州委員会(European Commission)共同研究センター(Joint Research Centre、JRC)のディレクター、スティーブン・レヒナー(Stephan Lechner)氏は、現代社会をぜい弱にしている原因は衛星利用測位システム(GPS)だと述べる。GPSは、ナビゲーション用途のみならず、コンピューターネットワークや電子機器の時刻同期に活用されており、航空宇宙や防衛、デジタル放送、金融サービス、政府機関などでもGPSの利用は進んでいる。
レヒナー氏は、「欧州だけでも通信事業者は200社ある。そして標準化がまったく進んでいない」と問題点を指摘する。各国政府は次の磁気嵐発生までに協力や情報共有の態勢を作ろうとしているが、次の磁気嵐はいつ発生するのか、その予測は難しい。
米航空宇宙局(NASA)が2009年にまとめた報告書は、強力な太陽フレアの影響で高圧変圧器が破壊され、電力網がショートする可能性を指摘している。そのような事態になれば、米国内の復旧費用は発生後1年間だけで2兆ドル(約170兆円)に上り、完全復旧まで最高で10年かかるとしている。