ゲラゲラでんぐりかえるほど笑った/『山びこ学校』無着成恭

 長橋カツエ


 夜、飯をくってから、みんないろりばたに集った。そのとき、
「おらだ(私たちは)、いろりばたて(と)いう題で、みんなつづり方書くんだぜ。」と言ったら、
「いろりばたて(と)いう題のつづりかたあ?」とおっつあ(父)が変な顔して聞いた。
「ン、ンだ(そうです)。」と云ったら、
「にさな(お前)の、つづり方なの(なんか)書ぐえっだが(かけるか)。」と兄さんがわらじをあみながら云った。
「書ぐえがらあ(かけますよ)。」と私が云ったら、
「どれ、おれ、おせっかなあ(おしえてやるからね)。」とおっつあが云ったのでみんなげらげら笑った。私は、まじめなつら(かお)をして、
「ンだが(そうですか)。ンだら、おせろ(そんならおしえて)。」と云ったら、
「兄(あん)つぁ、わらず(じ)作るす。姉(あね)はんは縄をなう。おっかあ(母)はいもをふかしている。おっつぁは、それを見ながら腹あぶりしている。カツ子は、おっつあからつづり方を聞いてるす。豊七は早くねだす。すずがな(しずかな)夜で、いろりの火あ(は)ぼんぼんもえでいる。みんなだまって仕事をしった(していた)て書いてやれ。」とまじめなつらをして云ったので、みんなゲラゲラでんぐりかえる(ひっくりかえる)ほど笑った。
 そんな話をしているうちにさつまいもがふけたので、さつまいもを食いながら、
「ほだごど(そんなこと)書いて、みんなから笑ろわれんべっ(笑われてしまうでしょうよ)。」と私が云ったら、
「馬鹿ほに。えま(今)の話しは本当のことだどれず(ではないか)。本当のことを書いたのを見て笑ろう人なのえねっだな(なんかいないよ)。」とおっつあが云ったので、笑ろう人いるかいないか、このとうり、つづり方書いたのです。


【『山びこ学校』無着成恭〈むちゃく・せいきょう〉編(青銅社、1951年/角川文庫、1992年/岩波文庫、1995年)】


 貧しくとも笑い声のさざめく生活。豊かでも無表情な家族。どっちがいいかね? 父親の言葉は期せずしてハードボイルドのような文体となっている。貧しい現実を突き放して見つめている証拠だ。


山びこ学校 (岩波文庫)