人間を民族や部族、宗派の違いだけで憎むことの愚かさ

 今シーズン、バグダットの〈ザウラ〉で19ゴールを決めて、“フィールドのスナイパー”の異名をとった22歳のFWアフマド・ムナージドが、仲間を代弁するように言った。五輪代表も兼務する彼は、スンニ派である。
「スンニもシーアも、我々にとっては大きな問題じゃないよ。周囲はいろいろ言うし、教義については深い違いがあることも知っている。でも僕は、そのことで対立したり仲たがいをするのなら、そんな違いすら知らずに生きてゆきたいんだ」
 湾岸戦争が勃発(ぼっぱつ)したのが8歳のときというムナージドは、物心ついたときから、戦火の中でのフットボールを強(し)いられてきた。人間を民族や部族、宗派の違いだけで憎むことの愚(おろ)かさを、体験で実感している。


【『蹴る群れ』木村元彦〈きむら・ゆきひこ〉(講談社、2007年)】


蹴る群れ