古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

アフガン兵士の詩

「カリル! 間違えてもヒズビとの戦闘なんかで死んだりするな。元気で帰ってきて、マスードの前で、私の前で、君の詩をまた吟じてくれ」。私は彼の後ろ姿を見ながらつぶやいた。彼は一編の詩を残して去っていった。


 敵の弓の矢で人が命を
 失わない日はありません
 そして人々が、自分の手足を
 失わない日もありません
 敵の残酷な火が村を焼き尽くさない
 日もありません
 親を亡くした子どもたちの泣き声が
 聞こえない日もありません
 心が二つに割れず、自分の家族から犠牲者をださなかった
 日をすごしたこともありません
 国の砂漠のあちこちは、シャヒードのお墓の上につけられた
 ロウソクの灯でいっぱいです
 春がいまほど、犠牲者の血で赤く
 美しくなっていることはありません
 歴史の本は戦いについてたくさん書いてはいるけれど
 書かれていないこともたくさんあります
 この貧しい人々のためには
 神が力を貸して勝利をものにするしかありません
 おーい、戦士たちよ、バラバラになっている戦士たちよ
 努力してまとまって下さい
 結果は貴方たちのものなのだから


 手帳いっぱいに詩を書きつけていたカリル。軽い安らかな寝息をたてて寝たカリル。インド、アフガン、中国を経て日本に伝わった仏陀のやさしい顔立ちを思わせたカリル。
 カリル、貴方からとうとう明るく楽しい詩は聞けなかったけれど、いつか、そんな詩が貴方の手帳を満たす時がくるに違いない。いやきてほしいと私は願う。


【『マスードの戦い』長倉洋海〈ながくら・ひろみ〉(河出文庫、1992年/『峡谷の獅子 司令官マスードとアフガンの戦士たち』朝日新聞社1984年に一部加筆)】