古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

ブラックホールがエネルギー供給源の可能性

 しかし最近のブラックホール研究は、ブラックホールの意外な面を暴き出してきた。ブラックホールこそは莫大な電磁波その他の形のエネルギー供給源であり、宇宙が現在の姿になるために多大な貢献をしてきたらしいのである。本書で伝えたいメッセージはこれである。ブラックホールは、周りから奪いとるだけでなく、周りに与えることもできる。だからこそ、「ブラックホールを見る」ことも可能になるのである。ぜひとも、ブラックホールに関する認識を改めていただきたいと願うばかりである。
 そもそも、何がブラックホールをそのようなユニークな存在たらしめているのだろうか。それは、ブラックホールの持つ深い重力ポテンシャルにある。試しにいろいろな天体表面における重力ポテンシャルの値を比較してみよう。重力ポテンシャルの深さは、天体近傍に自由落下する物質が、どの程度の速さで落ちていくかで表される。地球の場合で秒速11キロメートル、太陽で秒速600キロメートル、銀河の中心領域で秒速数千キロメートル、そしてブラックホールで光速、つまり秒速30万キロメートルとなる。このポテンシャルの深さが、ものを引きこむ力であるとともに、エネルギーを生みだす力にもなっている。


【『ブラックホールを見る!』嶺重慎〈みねしげ・しん〉(岩波科学ライブラリー、2008年)】


ブラックホールを見る! (岩波科学ライブラリー)