2冊挫折、1冊読了。
挫折72『眼と精神』M・メルロ=ポンティ/滝浦静雄、木田元〈きだ・げん〉訳(みすず書房、1966年)/全く歯が立たず。タイトル章の30ページも読了できず。完敗。
挫折73『倫理とは何か 猫のアインジヒトの挑戦』永井均(産業図書、2003年)/氏家さんのオススメ。以前から永井均の文章がどうしても肌に合わない。慎重さが中途半端になっているような気がする。「結局、私は、教科書シリーズにふさわしい本を書くことができなかった」(「はじめに」)──何と嫌らしい文章なのだろう。しかもこの後に自分の文章を紹介しているのだ。実に醜悪だ。「哲学教科書シリーズ」の一冊でありながら、へりくだったフリをしているのだから開いた口が塞がらないよ。15ページで挫ける。
117冊目『氷川清話』勝海舟/江藤淳、松浦玲編(講談社学術文庫、2000年)/文句なしの面白さだ。最初に『氷川清話』を編んだ吉本襄〈よしもと・のぼる〉を完膚無きまでにこき下ろしている。改竄(かいざん)、組み替えが酷いらしい。だから読んだことのある人もない人も、本書をひもとくべきだ。勝海舟は理想的なプラグマティズムを体現している。名を捨てて実を取る実務家だ。瞠目すべき見識が随所に見られるが、中でも日清戦争に対する件(くだり)が圧巻。当時は知識人という知識人が日清戦争を支持した。福澤諭吉を始め、夏目漱石、森鴎外、内村鑑三、田中正造など。勝海舟は海軍の創始者でありながら猛反対をした。兄弟喧嘩と切り捨て、歴史を辿れば日本の師匠であり、将来の経済的展望に立てば最大の顧客であると見通していた。何たる慧眼(けいがん)。東洋の融和を図ろうとする姿勢から明らかな地政学的素養が窺える。それでもって実際に世界のあちこちに人脈のネットワークを築いていたのだから凄い。