古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

無為徒食

 わたしは急に深い悲しみでいっぱいになった。自分はなんの価値もない、つまらない人間だ――生まれて初めて、そんな気持ちになったのだ。虚しく世界のあちこちを旅して歩き、自分と同じように価値のない他の人間を相手に無意味な取引をし、その目的といえば、ただ死ぬまで気持ちよく食し、服を着、住まうことなのだ。


【『鳥 デュ・モーリア傑作選』ダフネ・デュ・モーリア/務台夏子〈むたい・なつこ〉(創元推理文庫、2000年)】


鳥―デュ・モーリア傑作集 (創元推理文庫)