螺旋蒐集家

 わたしは螺旋蒐集家(らせんしゅうしゅうか)である。
 だが、そう言っても普通の人々には何のことかわかるまい。世の中には様々な蒐集家(コレクター)がいるが、螺旋を集めるのが生甲斐(いきがい)という人間など、そうはいないだろうからだ。
 螺旋とは何か。
 螺旋とは渦(うず)のことである。
 小さなものでは原子核の周囲を運動する電子の回転(スピン)、または田螺(たにし)のような巻貝から、大きなものでは、最大直径16万光年にもおよぶ我々の属する銀河系のようなひとつの渦状星雲に至るまで、あらゆるものが渦を巻いている。
 それを捜し、集めるのがわたしの趣味なのだ。


【『上弦の月を喰べる獅子』夢枕獏早川書房、1989年/ハヤカワ文庫、1995年)】


上弦の月を喰べる獅子〈上〉 (ハヤカワ文庫JA) 上弦の月を喰べる獅子〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)