古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

呉子「戦場とは屍(しかばね)をさらすところだ」

 呉子曰く、「凡そ兵戦(へいせん)の場は、屍(しかばね)を止むるの地、死を必(ひつ)とすればすなわち生き、生を幸(さいわい)とすれば則ち死す。
 其の善く将たる者、漏船(ろうせん)の中(うち)に坐(ざ)し、焼屋(しょうおく)の下(もと)に伏するが如く、智者をして謀(はか)るに及ばず、勇者をして怒(いか)るに及ばざらしむれば、敵を受けて可なり。
 故に曰く、『兵を用うるの害は猶予最も大なり。三軍の災は疑より生ず』」と。


 呉子はいわれた。
「戦場とは屍(しかばね)をさらすところだ。死を覚悟すれば、生きのびることもできるが、生きながらえようと望んでいると、逆に死をまねくことになる。
 良き指揮官は、穴のあいた船に乗り、燃えている家の中で寝ているように、必死の心構えでいるものだ。そうなればたとえどんな智者がはかりごとをめぐらそうと、勇者がたけりくるってかかってこようと、どんな敵をも相手にすることができるのだ。
 だからこそ軍隊を動かすにあたって、『優柔不断を避けるべきであり、全軍の禍いは、懐疑と逡巡から生まれる』といわれるのだ」


【『呉子尾崎秀樹〈おざき・ほつき〉訳(教育社、1987年/中公文庫、2005年)】


呉子 (中公文庫BIBLIO)