古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

政治の本質

「反アルコール・キャンペーン」を過剰に厳しくしたことによって、どういうことが起こったか。まず、砂糖がなくなるんです。なぜかというと、砂糖水を作って、その中にイースト菌を入れて、少し濃くするとウオッカができる。これをロシア語で「サマゴン」と言います。つまり「自家製蒸留酒」ができるんです。これを作るために砂糖が買い占められて、なくなってしまう。次に何がなくなるかというと、ジャムです。もちろんジャムでウオッカを作るんです。そして、ジャムもなくなってしまうと、次にオーデコロンがなくなるんです。これ、ちょっと危ないんですが、化粧水をそのまま飲むようになるんです。しかし、それも駄目になると今度は靴クリームなんです。靴クリームの中にアルコールが含まれているんですね。そこからどうやってアルコールを取り出すかというと、黒パンの上に靴クリームを山盛りにして、半日ぐらいすると、黒パンの中にアルコールが沁み込んでくるんですよ。そして、上の部分は切って捨てて、アルコールがたっぷり沁みた黒パンを食べるんですね。
 そんなことをするもんですから、年間に数万人も死んでしまったんです。つまり、それまでアルコールの飲み過ぎで死んでいた人間の数とそんなに変わらなくなってしまったわけなんです。これはやり過ぎだということで「反アルコール・キャンペーン」は1988年に止めることになります。
 ゴルバチョフ政権の時にロシア人のインテリからこんなことを聞いたことがあるんです。
「これは政権が危ないぞ」
 どういう理由でそんなことを言うのかと聞きますと、
「ロシアでは手を付けちゃいけないものが四つある」
 と、彼は言うんです。
「『黒パン(白パンはなくても生きていける)』『ジャガイモ』『タバコ』それに『ウオッカ』だよ。この四つのうちの二つが同時に欠乏することになったら、ロシアでは暴動が起こるに決まっているんだ」
 そう彼は私に言いました。


【『国家の崩壊』佐藤優〈さとう・まさる〉、宮崎学(にんげん出版、2006年)】


国家の崩壊