何か知らぬが現代が歴史的変動のただ中にあるのでないか、という実感は恐らく多くの人々にとって本能的に感じられることであろう。しかし、それがどのような原因によって起こっているのか、それは何を示しているのか、何を指向しようとしているのか、誰もがそれを知りたいにもかかわらず、よくわからない。そして言い知れぬ不安と焦燥にさいなまれている。そうした現代人の不安にこたえてくれるのが本書である。(訳者あとがきより)
本書こそは、まさに現代人のための現代の社会学である。騒乱と混惑に終始した1960年代を、これほど鮮やかに分析した本はない。『イデオロギーの終焉 1950年代における政治思想の涸渇について』で登場し、『脱工業社会の到来 社会予測の一つの試み』にいたるまで、現代社会の本質を鋭く衝いてきたダニエル・ベルが、今その思想の全貌を明らかにする。政治、経済、文化がバラバラに分解した現代への処方箋は何か。宗教こそ新たな統一の基盤であるとする本書の提案を、真剣に受けとめねばならない。
公共家族(パブリック・ハウスホールド)という言葉が、本書で初めて日本に紹介される。それは、今までの経済学や社会学が、個人と企業を中心に考えてきて、真剣にとりくむことのなかった第三の部門である。それはまさに脱工業化社会の中心領域である。日本でも、企業エゴ、住民エゴ、地域エゴ等と呼ばれる状況が生じてきた。争い合う権利要求のため、政治は立ち往生している。この現代的な問題を解決するのが、公共家族の理念なのである。