古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

つつましい落魄

 その横町へはいってゆくと、ふしぎな心のやすらぎを覚えた。そこにはつつましい落魄(らくはく)と、諦(あきら)めの溜息が感じられた。絶望への郷愁といったふうなものが、生きることの虚(むな)しさ、生活の苦しさ、この世にあるものすべてのはかなさ。病気、死、悲嘆、そんな想いが胸にあふれてきて、酔うようなあまいやるせない気分になるのであった。(「嘘アつかねえ」)


【『日日平安』山本周五郎新潮文庫、1965年)】


日日平安 (新潮文庫)