何時間も歩いた。立ち止まったのは、イワシやコーンビーフをガリといっしょに食べ、コカインやブラウン・ブラウン(※火薬とコカインを混ぜたドラッグ)を吸引し、白いカプセルを何錠か飲んだときだけだ。この組み合わせのドラッグをやると、エネルギーがどっと湧いてきて、ぼくらは獰猛(どうもう)になった。死という考え方は、頭をよぎりもしなかったし、人を殺すことが、水を飲むのと同じくらい簡単になった。ぼくの頭は、初めての殺しの最中にぷつんと切れた。そればかりか、良心の呵責(かしゃく)に耐えられないことを記憶するのをやめた。というかそのように思えた。
【『戦場から生きのびて ぼくは少年兵士だった』イシメール・ベア/忠平美幸〈ただひら・みゆき〉訳(河出書房新社、2008年)】