古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

氷のナイフ

「シャンクがほしいんだけど……」
 シャンクとはナイフのことだ。彼は薄目を開けてこちらを見た。
「どんなシャンクがほしいんだ」
「護身用の短剣をくれ」
「予算は」
「40ドル」
「ふーん、それで材質は」
「えっ、鉄以外にあるのか」
「いろいろあるよ。アルミニウム、プラスチック、セラミック。それから紙や氷のもある」
「紙と氷のシャンクだって」
 武器屋は想像もつかないようなナイフを作る。
「一番安いシャンクは20ドルの紙ナイフだ。これは新聞紙と歯磨きペーストで作る。新聞紙を水に濡らして、それを歯磨き粉で固める。乾燥させればできあがりだ。紙だといって馬鹿にするなよ。ナタのように切れ味は鋭いからな。氷のシャンクは特別注文で50ドルだ。鋳型の中に塩水を流し込んで製氷機に入れておくと立派なシャンクができる。要するにつららのナイフだな。このナイフで相手を刺すと、溶けて証拠が残らない。これは、殺しのタイミングまで計算に入れておく必要があるから作るのは非常に難しい。わしは昔、フォーソンの刑務所にいたが、そこでは氷のナイフを使って何件も刺殺事件が起きたよ」


【『アメリカ重犯罪刑務所 麻薬王になった日本人の獄中記』丸山隆三〈まるやま・たかみ〉(二見書房、2003年/ルー出版、1998年『ホテルカリフォルニア 重犯罪刑務所』を加筆訂正)】


アメリカ重犯罪刑務所―麻薬王になった日本人の獄中記 ホテルカリフォルニア 重犯罪刑務所