ファシズムの綱領は「否定」である

否定がその綱領である


 ファシズム全体主義には、前向きの信条がない代わりにおびただしい否定がある。もちろんあらゆる革命がそれまでのものを否定し過去との訣別を信ずる。そこに歴史的な継続性を見出し、あるいは見出したと思うのは後世の見方にすぎない。
 しかしファシズム全体主義においては、歴史上のいかなる政治運動と比べても、過去の否定がはるかに徹底している。なぜならば、否定がその綱領だからである。しかも、さらに重要なこととして、ファシズム全体主義は対立する理念があればそれらの双方を同時に否定する。
 ファシズム全体主義は反リベラルであると同時に反保守である。反宗教であると同時に反無神論である。反資本主義であると同時に反社会主義である。反軍国主義であると同時に反平和主義である。反大企業であると同時に、あまりに多すぎるがゆえに反職人、反商店である。挙げれば切りがない。


【『ドラッカー名著集 9 「経済人」の終わり』P・F・ドラッカー/上田惇生〈うえだ・あつお〉訳(ダイヤモンド社、2007年/岩根忠訳、東洋経済新報社、1958年)】


ドラッカー名著集9 「経済人」の終わり