古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

諸行無常への覚悟

 若くて美しい、完全とも思われる状態にいる者ほど、いつかはその完全な状態が失われてしまうことを恐れる。『華麗なるギャツビー』以来のアメリカの文学作品の中には、綿々とそのようなモティーフが受け継がれている。ディズニーランドのぴかぴかのプラスティックの世界は、永遠の若さと美しさのメタファーである。そのような見かけ上の永遠は、傷ついたプラスティックのパーツを交換するシステムによって成り立っている。
 しかし、自分の人生は取り替えるわけにいかない。皺だらけになった肉体を、つるつるの若い肉体と交換するわけにはいかない。傷ついてしまったら、傷ついてしまったことを引き受けて生きていくしかない。


【『脳と仮想』茂木健一郎(新潮社、2004年/新潮文庫、2007年)】


脳と仮想 脳と仮想 (新潮文庫)
(※左が単行本、右が文庫本)