古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

ジョン・グレイ、石弘之、安田喜憲、湯浅赳男


 2冊読了。創造と破壊の両極を堪能する。


 18冊目『わらの犬 地球に君臨する人間』ジョン・グレイ/池央耿〈いけ・ひろあき〉訳(みすず書房、2009年)/こちらが破壊。3780円という値段も破壊的だ。大量の唾(つばき)で構成された「唾棄本」(笑)。キリスト教を始めとする宗教、哲学、進歩主義、道徳、スピリチュアリズムに至るまでを徹底的にこき下ろしている。何と俎上(そじょう)にはクリシュナムルティまで載せられている。これについては追々私が批判をする予定。「書かれていない」ことがわかれば簡単に見抜くことができる。ただし、この思想史家は実に老獪(ろうかい)だ。キリスト文明から目を覚まさせる意図は評価できるが、悪口に傾き過ぎているため、不幸この上なく見えてしまう。きっと今頃、吐いた唾の半分くらいが自分の身に降りかかっていることだろう。諧謔(かいぎゃく)に富んだ短文でぐいぐい読ませる。持ち上げられているのは道家の思想のみ。ジョン・グレイが示す未来像は、その名の如く灰色だ。ま、程度を高くした斎藤美奈子って感じですな。


 19冊目『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男(洋泉社新書y、2001年)/こちらが創造。環境と文明の相関関係を探る学問が環境史。初めて知った。これは昂奮した。鼎談(ていだん)なので読みやすい。今まで、農耕民族と騎馬民族という対立軸で何となく洋の東西を比較してきたが、本書で提示された動物文明(家畜文化&麦作)と植物文明(稲作&漁業)が歴史的事実に即していることを知った。で、家畜文明は奴隷を必要とするに至り、徹底して環境を破壊し、遂には未知の伝染病から鉄槌を下される。これがヨーロッパの歴史のようだ。併せて水問題も取り上げている。環境史というのは歴史の様相を一変させるだけの力がある。森と水と食糧が人類史を左右していることがよくわかった。