古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

人間の表出と表現の積畳が歴史

 結局、人間ひとりひとりが生きていくなかでの表出と表現の積畳が歴史です。表出というのは自覚されないまま外側へ出ていくものです。じつはこの部分の方が大きいのです。それから意識的に表現する部分があり、この二つの蓄積が現在の文化的な状況、すなわち歴史をつくっています。
 その人間の表出と表現を生み出すのは、――ここが一番大事なところですが――、人間の意識下の意識、つまり無意識、自覚されない意識です。表現といえども無意識が原動力になっています。怖いのは何かぽろっと漏らした言葉にじつは本心があったり、あるいは自分が自覚しないでついつい反復して使っている言葉にスタイルが宿ることです。頑張って意識的に小説を書いたとか詩を書いたとか、そういうところよりも、むしろ普段何気なくしゃべっているときに、いつもあの人はこういう言葉を使うとか、あるいはこういうふるまいをするというところに本心があって、そういう自分自身すら気づいていないような本心の積み重なりが歴史をつくっています。


【『漢字がつくった東アジア』石川九楊筑摩書房、2007年)】


漢字がつくった東アジア