古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

『わらの犬 地球に君臨する人間』ジョン・グレイ/池央耿訳(みすず書房、2009年)


 恋愛モノの自己啓発本を書いている人物と同姓同名のため注意を要する。



わらの犬――地球に君臨する人間

 古代中国の祭祀では、わらの犬を捧げ物にし、祭りが済んで用がなくなると、踏みつけられて捨てられた。「天地自然は非情であって、あらゆるものをわらの犬のようにあつかう」(老子)。人間も、地球の平穏を乱せば容赦なく捨てられるだろう。地球にとって疫病になりはてた人類が滅びれば、この惑星はふたたび生き返る。


 科学技術の進歩によって、人間の不死が実現するという信仰は、先進資本主義国で生き延びた。人間が「進歩」信仰に取りつかれるようになって久しい。しかも「ヒューマニズム」という人間中心の考え方や、「道徳」という人間に特有の価値を、私たちはもやは疑うこともない。
 ジョン・グレイは、現代文明がキリスト教と科学技術の発展とを両輪にして疾駆してきた筋道を、糸をほぐすようにたどる。一神教が誕生して「進歩」や「歴史」の観念が生まれる前は、「時間」の感覚がどのように違ったか。もし私たちが暗に了解する終末論から解放されたら、どんな世界が見えてくるか。
 挑戦的な内容は、刊行と同時に論争を巻き起こし、「賛否を問わず避けて通れない」と評され、『タイムズ』ほか11紙が「今年の一冊」にあげた。未来への方策を真摯に探る衝撃の書である。