古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

J・クリシュナムルティ


 1冊読了。


 137冊目『生と覚醒のコメンタリー 2 クリシュナムルティの手帖より』J・クリシュナムルティ/大野純一訳(春秋社、1984年)/クリシュナムルティ9冊目。1よりはるかに強烈だった。あまりにも鮮やかな風景描写が次々と出てくるため、自分が見慣れた光景も違って見えてくるほどだ。一方、人物描写は辛辣(しんらつ)で手厳しい。クリシュナムルティは手垢(てあか)にまみれた常識を突き崩す。一見すると言葉のトリックではないかと見紛(まが)うほどだ。努力を否定し、理想を否定し、秩序を否定し、思考を否定し、記憶を否定し、過去を否定し、「私」を否定している。「私」が止(や)んだ時、大いなる静謐(せいひつ)が訪れ、広大な縁起の世界がありありと展開すると教えている。鋳型(いがた)にはめ込まれ、変形してしまった自分の精神が浮かび上がってくる。