最初の部屋を見終わり、入った戸口と反対側から出た。次の部屋があり、また次があってそのまた次、次、次があった。すべて死体に埋めつくされており、さらに芝生にも死体が転がっていて、緑濃いすばらしい芝には頭蓋骨が散らばっていた。外に立っていると、パリンと割れる音が聞こえた。カナダ人の老大佐がわたしの前でよろけた。本人は気づいていなかったが、頭蓋骨につまずいて踏み割ったのだ。ニャルブイェに来てからはじめて感情が焦点を結んだ。わたしが感じたのはこの男へのひそかな、だが鋭い怒りだった。そのときまた割れる音がして、足元が揺れた。わたしも頭蓋骨を踏みつけていたのだ。
【『ジェノサイドの丘』フィリップ・ゴーレイヴィッチ/柳下毅一郎〈やなした・きいちろう〉訳(WAVE出版、2003年)】