高校生の頃、友人と二人で1週間ほど土工のアルバイトをしたことがある。生まれて初めての飯場生活をした。体力にはそこそこ自信があったものの、高校生の筋肉が通用するような世界ではなかった。疲労は思考力を奪う。確かに飯は美味かったが、ただそれだけのことであった。人はヘトヘトになると獣と化す。それを巧みに描写した団鬼六の名文――
しかし、この飯場の中に溶け込んで、朽ち果てていく気にはどうにもなれなかった。ここは人間の魂が日一日と蝕まれて人間的な情念が喪失し、肉体だけの人間になり果ててしまう社会なのだ。
【『真剣師 小池重明 “新宿の殺し屋"と呼ばれた将棋ギャンブラーの生涯』団鬼六〈だん・おにろく〉(イースト・プレス、1995年/幻冬舎アウトロー文庫、1997年)】