古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

アイヒマン

 アイヒマンアウシュヴィッツとマイダネック強制収容所を視察した結果、そこでの抹殺工程を考え出した人物でもあった。ただし、彼は他人が苦しむのを見て快楽を覚えるサディストではなかった。アイヒマンはほとんど事務所の中で自らの仕事に専念し、結果として数百万の人間を死に追いやったのである。一官僚として、彼は死に追いやられる人間の苦痛に対し、何の感情も想像力も有してはいなかった。彼の尋問に当たったイスラエル警察のレスから、自分の父親もまた大量殺戮の犠牲者の一人だったことを聞いて、アイヒマンは「驚愕」する。しかし、そのことに対しても、彼は部分的な責任しか認めようとはしなかった。彼自身は、レスの父親を含む数百万の人間の死に直接関与したわけではなく、単に移送したに過ぎない。それも命令によって。彼は再三にわたって、自分の責任と権限が強制収容所の入口の手前だけに限られていたことを主張した。強制労働も殺人も遺体の焼却も、彼の権限外であった。


【『アイヒマン調書 イスラエル警察尋問録音記録』ヨッヘン・フォン・ラング編/小俣和一郎〈おまた・わいちろう〉訳(岩波書店、2009年)】


アイヒマン調書―イスラエル警察尋問録音記録