古本屋の覚え書き

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最高裁は酒井法子主演、故・原田昌樹監督の裁判員制度広報用映画『審理』の配信及び公共施設での貸し出し、および上映活動の中止を決定した

「恥ずかしくない生き方したい」=裁判員広報映画に主演−酒井容疑者


「恥ずかしくない生き方をしたい」。女優酒井法子容疑者(38)が8日夜、逃走劇の末に逮捕された。最高裁が制作した裁判員制度の広報用映画「審理」の主役や、日中親善大使を務めたほか、薬物乱用防止イベントに参加するなど公的な活動にも取り組んでいた。
 映画の題材は正当防衛が争われた殺人事件の裁判で、酒井容疑者は裁判員に選ばれた主婦を好演。「裁判員は生き方まで問われている気がする。自分も恥ずかしくない生き方をしないと」。映画の中で、同容疑者はそう語っていた。
 試写会後の記者会見では「選ばれたら何とか参加したい」と裁判員に意欲を示した。
 最高裁は約7100万円をかけて約19万枚のDVDを製作し、制度の周知などに活用していたが、広報への利用を自粛。ホームページでの無料配信も停止した。
 アジアでの絶大な知名度を背景に、日中国交正常化35周年を迎えた2007年には日中親善大使を務めた。首相官邸安倍晋三首相(当時)を表敬訪問したほか、記念イベントでは、中国の国会議事堂にあたる人民大会堂で約7000人を前に熱唱した。
 外国人観光客誘致のために中国や香港、韓国で放映されたテレビコマーシャルに「日本の顔」として起用されたこともあった。
 1993年には、千葉県市川市で開催された厚労省などが所管する民間団体「麻薬・覚せい剤乱用防止センター」のイベントに、ゲストの1人として出席。トークショーなどの後、同容疑者のコンサートが1時間にわたり行われた。最後には撲滅運動のキャンペーンソングを参加者約1700人と合唱したという。


時事通信 2009-08-08】

「『審理』公開停止への疑問」切通理作


 私は批評家、ノンフィクションライターをしております。


 最高裁酒井法子主演、故・原田昌樹監督の裁判員制度広報用映画『審理』の配信及び公共施設での貸し出し、および上映活動の中止を決定したというニュースを知りました。


 私はただいま、ライターとして原田監督の遺された言葉を集め、関係者の証言をいただいた本を作っております。

 
 その過程で、原田監督の遺作である『審理』は癌で余命を宣告されていた中で、命を刻むようにして作っていった作品であることを知りました。毎日撮影が終わると、監督は自宅で倒れていたといいます。それでも、撮影現場の誰一人重い病気だと気づかなかったぐらい、気力を限界まで振り絞って作られたのです。


 出来上がりは壮絶さのかけらも見せず、裁判を描いて、ここまで心がやわらかくなる映画が他にあっただろうかというようなテイストで、酒井法子演じるごく普通の主婦の視点で、裁判員制度に臨む人たちに、人が人を裁くのではなく、罪を裁くのだということをわかりやすく説いていました。

 
 原田監督が生きているときにはまだ行われていなかった裁判員制度における法廷、つまり「未来法廷」。そこを描くということは、監督からいまの時代に放たれたメッセージ。


 それが、こんな形で「封印」されてしまうなんて。


 裁判員制度の第一回法廷が開かれた直後という、ある意味一番タイムリーな時期に、こんな「未来」が待っていたなんて。


 酒井法子さんは原田組最後の主演女優でした。


 覚せい剤の有罪性について論議があるのは知っています。でも、もし容疑が本当なら、酒井さんには、こういう影響がある立場の仕事なのだということに、もっと自覚を持ってもらいたかった。少なくとも、そういう信頼があっての上でのキャスティングだったと私は聞いています。


 でもその前に、容疑の段階でのこの措置は、公平な裁判について描く広報映画への措置として、他ならぬ最高裁が、性急に下していい判断だったのでしょうか。


 そのことを、疑問に思います。


 また、作品そのものと出演した役者、制作に携わったスタッフの私生活とは区別して考えるべきではないでしょうか。


 そしてこの作品を、最高裁が制作した作品として、歴史から消してしまうようなことに、もしなったとしたら、とても悲しいことです。今回の公開中止はあくまで一時的な措置であることを祈ります。


切通理作 中央線通信