2冊読了。
82冊目『集英社ギャラリー〔世界の文学〕20 中国・アジア・アフリカ』朝鮮短編集、魯迅、巴金、茅盾、クッツェー、ナーラーナン、イドリース、マハフーズ(集英社、1991年)/A5判で1435ページ、4935円也。もちろん読み終えたわけではない。私の目的は、ユースフ・イドリースの「黒い警官」「肉の家」(奴田原睦明訳)と、ナギーブ・マハフーズ(※最近の翻訳では「ナギーブ・マフフーズ」となっている)の「花婿」「手品師が皿を奪(と)った」(高野晶弘訳)にあった。いずれも、岡真理著『アラブ、祈りとしての文学』(みすず書房、2008年)で紹介されていた作品。いやはや、これは凄かった。特にイドリースの両作品は甲乙つけ難く、私が読んできた小説の中で1位と2位にランクされた。「黒い警官」は暴力を、「肉の家」は性を描いた内容だが、丸山健二が辿り着けなかった世界がここにある。まったくもってアラブ文学は底が知れない。いずれも、エジプトの作家である。
83冊目『蹴る群れ』木村元彦〈きむら・ゆきひこ〉(講談社、2007年)/ベストセラーとなった『オシムの言葉』(集英社インターナショナル、2005年/集英社文庫、2008年)に続いて著したサッカー・ノンフィクション。こっちの方がはるかに面白かった。私はサッカーをまったく観ないし、興味すらない。それでも、ここで紹介されている20人になんなんとする人生の春秋には、涙を禁じ得なかった。世界を股にかけるサッカー・プレイヤーの何と逞しいことか。彼等は同じフィールドにあっても立っている大地が異なっている。そして彼等は、サッカーボールではなく“理不尽な運命”を蹴飛ばしているのだ。短篇小説さながらの完成度である。全体のレベルが高すぎるため、土田尚史と田北雄気を紹介した一章が明らかに見劣りしている。日本人の卑屈な一面が実に醜悪だ。