2009-07-07 鮭の一生 抜き書き 鮭の一生で、もっとも壮絶哀切をきわめるのは、ふるさとの川をのぼるときである。 鮭が、じぶんの生まれた川を上ってゆくのは、そこで結婚するためであり、その初夜があけた朝、まちがいなく、死ぬためである。 それは、鮭の生涯のうち、もっとも花やかなフィナーレであり、そのフィナーレは、突如として、一切の歌声も踊りも停まり、まっくらな中に、ぶざまな幕が下りて、終りを告げるのである。(昭和39年12月) 【『一戔五厘の旗』花森安治(暮しの手帖社、1971年)】 花森安治