古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

鮭の一生

 鮭の一生で、もっとも壮絶哀切をきわめるのは、ふるさとの川をのぼるときである。
 鮭が、じぶんの生まれた川を上ってゆくのは、そこで結婚するためであり、その初夜があけた朝、まちがいなく、死ぬためである。
 それは、鮭の生涯のうち、もっとも花やかなフィナーレであり、そのフィナーレは、突如として、一切の歌声も踊りも停まり、まっくらな中に、ぶざまな幕が下りて、終りを告げるのである。(昭和39年12月)


【『一戔五厘の旗』花森安治暮しの手帖社、1971年)】


一戔五厘の旗