古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

飯嶋和一


 1冊読了。


 58冊目『汝ふたたび故郷へ帰れず飯嶋和一〈いいじま・かずいち〉(河出書房新社、1989年/リバイバル版 小学館、2000年/小学館文庫、2003年)/表題作と短篇二つが収められている。私が読んだのは、リバイバル版だが、小学館は活字がよくない。表題作の中篇が圧巻。荒削りではあるが、その分だけ勢いがある。飯嶋和一は30代にして、これほどの世界をつくり出した。挫折したボクサーが故郷の島へ帰る。そして再起を図るまでの物語だ。飯嶋作品はいずれも自立した孤独を描きながらも、個と個との強い紐帯(ちゅうたい)を紡ぎ出す。そこに流れ通う濃密な感情が、読者をして故郷や少年時代といった原点に無理矢理引き戻す。『始祖鳥記』(小学館、2000年)で弥作が幸吉に対して言う「ああやん」(※兄ちゃんの意)の響きがそこここにある。島に帰った箇所を読みながら、さしたる理由もなく涙が流れて仕方がなかった。多分、私が失いかけた何かがそこにあったからだろう。本書によって、私の中では飯嶋和一丸山健二を完全に超えた。