古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

大塚英志、玉井禮一郎、トム・ルッツ、岡本浩一


 3冊挫折、1冊読了。


 挫折26『物語消滅論 キャラクター化する「私」、イデオロギー化する「物語」大塚英志〈おおつか・えいじ〉(角川oneテーマ21、2004年)/オタクによる理屈っぽい評論。話し言葉であるにもかかわらず難解。ついてゆけなかった。20ページほどで挫ける。


 挫折27『大石寺の「罪と罰」』玉井禮一郎〈たまい・れいいちろう〉(たまいらぼ出版、1997年)/部分的な資料として取り寄せたもの。巻末に収められた菅田正昭(すがた・まさあき、宗教史家・離島文化研究家)の論文が興味深い内容だった。日蓮が書写した本尊の写真が十数点掲載されている。内容的には大石寺貫首(かんず)の阿部日顕から寄せられた疑難に答えたものだが、目新しい視点がない上、思想的な深みも皆無だ。


 挫折28『働かない 「怠けもの」と呼ばれた人たち』トム・ルッツ/小澤英実、篠儀直子訳(青土社、2006年)/これは面白かったのだが、如何せん長すぎる。489ページで余白も少なく3360円は安い。迷った挙げ句、222ページでやめた。労働文化史の決定版といってよい。重いテーマであるにもかかわらず筆致が軽妙。ベンジャミン・フランクリンに始まり、各時代のフリーターやニートみたいなタイプ(本書ではスラッカーと表現されている)の著名人がずらりと勢揃いしている。メルヴィルホイットマンマーク・トウェインなんかも登場する。スラッカーこそは文化の担い手であった。


 57冊目『権威主義の正体岡本浩一PHP新書、2005年)/『無責任の構造 モラルハザードへの知的戦略』(PHP新書、2001年)と半分以上重複した内容。『無責任の構造』で感じた違和感が、より具体的な形で現われている。岡本浩一は卓越した説明能力の持ち主ではあるが、それだけで終わってしまっているために、骨太の論理を提示できず、結論が必ず些末な方向に終始する癖がある。『無責任の構造』も最終章が全くダメだったが、本書はもっとダメである。アプローチすべきベクトルが逆方向となっているため、安っぽい保守主義に堕してしまっている。更に、岡本浩一自身が“権威主義”という言葉の権威に取りつかれて、あらゆる問題を権威主義で読み解こうとするあまり、偏った方向からの批判に終始している。読み手に旺盛な批判精神が求められる作品だ。