朝日新聞阪神支局襲撃:週刊新潮誤報 編集長「捏造したわけでない」 「被害者」強調

 朝日新聞阪神支局襲撃事件の「実行犯」の手記を掲載した週刊新潮の早川清編集長は15日、毎日新聞の取材に裏付け取材の不足を認めたが、「結果的に誤報だったが、捏造(ねつぞう)したわけではない」と、島村征憲氏のうそに翻弄(ほんろう)された被害者との立場を強調した。インタビューは各社個別とし、記者1人で30分に限定した。
 早川編集長との一問一答は次の通り。


 ――警察に裏付け取材しなかったのは。


 ◆時効になった事件について警察に取材しても、本物か偽物かを答えることはない。最初から除外した。


 ――朝日新聞から手記掲載前に「(手記内容は)事実と異なる」と回答されながら、なぜ掲載したのか。


 ◆朝日の見解が正しいかどこで証明するのか。島村氏が虚偽のことを言っているのか、本当の犯人が秘密の暴露をしているのか、その検証手段を持っていなかった。


 ――取材の不十分さはどこか。


 ◆手記を掲載した大きい理由は実名告白だった。欠落していたのは周辺取材。そこを徹底して取材していれば彼の経歴からほころびが掲載前に出ていたのではないかと思う。


 ――元米国大使館職員と和解した理由は。


 ◆和解の内容は第三者条項で言えない。そのとき、疑念が生じ始めたが、すべて虚偽だとは思わなかった。


 ――小尻記者の遺族に謝罪はしないのか。


 ◆私たちが一番しなければならないことは読者への説明だ。小尻さんのご遺族にはある意味でお騒がせしたというか、不要な摩擦を起こしてしまったことは申し訳ないと思う。


 ――休刊、廃刊、人事処分は検討しないか。


 ◆捏造とは全く次元の違う問題だ。誤報の責任は編集長として感じていて、大変重く受け止めている。新聞でも雑誌でも誤報したら休刊、廃刊しなければならないのかとなる。人事処分は会社や役員会が考えること。

説明責任を果たしてない――朝日新聞社広報部の話


 週刊新潮は、初報掲載後2カ月余りがたち、ようやく誤報を認めました。しかし、弊社に対してはいまだに正式な謝罪はありません。同誌編集部から事前に問い合わせを受け、島村証言には事件の客観的事実と明らかに異なる点が多数あることを回答したにもかかわらず、「告白手記」を連載し、今になって「週刊新潮はこうして騙(だま)された」と被害者であるかのようなおわび記事を掲載する姿勢は疑問です。取材上の問題点の客観的な検証や再発防止策への言及もなく、説明責任を果たしているとは言い難いと考えます。

経緯の検証、不十分――大石泰彦・青山学院大教授(メディア倫理法制)


 週刊新潮が取材経緯を検証した記事は、島村氏にだまされたとし、被害者の立場を強調するのみで、誤報の経緯を十分検証しているとは言えない。そもそもこれだけ重大な事柄を数人の取材班で、有力な物証も見つからないまま、今年1月初めの直接取材から掲載まで1カ月足らずの短い取材で報じたのは余りに拙速すぎたのではないか。
 検証記事からは最初は島村氏に疑問の目を向けながらも徐々にマイナス材料は無視していく様子がわかり、ジャーナリズムの基本である事実確認を忘れてしまったかのようで、手記を掲載するという企画ありきの意識がうかがえる。その姿勢は、朝日新聞が島村氏の証言を否定したことを無視したり、捜査当局への取材をしなかった理由を言及していないことからも分かる。
 島村氏に宿泊施設を提供するなどして囲い込むとともに、他メディアへの取材を受けないよう助言したことは、島村氏が週刊新潮が期待する情報を出すなどの誘導に応じたり、他のメディアによる事実のチェックを鈍らせるなどの危険性に対する認識が低い。
 ただ、積極的なジャーナリズムには、誤報はあり得る。重要なのはその後にどう生かしていくかで、社会で共有するためにできる限り情報開示が求められる。今回も早川編集長は報道各社の個別取材に応じたものの、記者を1人に制限したり写真取材を拒んだと言うが、閉鎖的で組織防衛的な態度は誠実さを欠いていると批判されてもやむを得ない。(談)


毎日新聞 2009-04-16】