枕には4万匹のダニがいる/『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン

 科学史を俯瞰した作品。700ページほどある大冊だが、小ネタを交えてぐいぐい読ませる。例えばこう――

 実際問題として、これについては悪い面ばかりとは限らない。ベッドのマットレスに微小な壁蝨(だに)が推定200万匹棲みついているとわかっていたら、夜もおちおち眠れなくなるだろうからだ。壁蝨は真夜中になると姿を現わし、皮脂を食べ、人がまどろんたり寝返りを打ったりするあいだにはがれ落ちるさくさくのおいしい皮膚のかけらを堪能する。枕だけでも、4万匹の壁蝨が棲みついている(壁蝨にとっては、人間の頭部は単なる大きな油っこいボンボン菓子にすぎない)。そして、枕カバーを洗うくらいで事態が変わると思ったら大間違いだ。ベッドの壁蝨くらい小さな生物にとっては、どれほど目の詰まった布地でも、船の帆綱のように見える。壁蝨の測定をした英国医療昆虫学センターのジョン・マウンダー博士の言葉を引用すると、実際のところ、枕を買ってから6年――枕の平均耐用年数と考えられる期間――経過した場合、その重さの10分の1は「はがれた皮膚、生きている壁蝨、死んだ壁蝨、壁蝨の糞」で構成されていると考えられる(しかし、少なくともそれは自分の壁蝨だ。モーテルのベッドにもぐりこむ際には、自分が何に寄り添っているのかを思い起こしてほしい)。これらの壁蝨は、太古の昔から人間のそばにいたが、発見されたのは1965年のことだ。


【『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン/楡井浩一〈にれい・こういち〉訳(NHK出版、2006年)】


「ダニとの共生」――あまり嬉しくなるような話ではない。枕を販売している人にとっては大いに有益な情報だ。「奥さん、買い換えるなら今ですよ」(笑)。


 建物の密閉性が高くなってからというもの、ダニは増える一方でアレルギーの原因となっている。とすると、ダニどもと上手に共生してゆくためには、もっと通気性のよい建築構造にした方がいいのだろう。ひょっとすると、ダニは密閉された居住空間が人間にとって不健康であることを教えてくれているのかも知れない。人類が誕生して以来の付き合いなんだから、今頃になって別れるわけにもゆくまい。


 そういえば、小学校の時分に悪さばかりしていたため、担任の先生から「お前達は社会のダニだ!」と怒鳴られたことがあった。「愚連隊だ!」とも。思わず辞書で調べたものだ。私は学級代表という要職にあった。そのため先頭に立って悪さをしたものだ(笑)。


 尚、蛇足ではあるが、ダニを漢字表記にする訳者の感覚はいただけない。

人類が知っていることすべての短い歴史(上) (新潮文庫) 人類が知っていることすべての短い歴史(下) (新潮文庫)