古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

チェチェンの伝統「血の報復の掟」/『国家の崩壊』佐藤優、宮崎学

目をえぐり取られ、耳をそがれ、手足や性器を切断されたチェチェン人の遺体

 ・ソ連によるアフガニスタン侵攻の現実
 ・チェチェンの伝統「血の報復の掟」


 チェチェン人の男は必ず復讐を果たすという――

 それから、チェチェンには、独特の「血の報復の掟」があるんです。チェチェンでは、子どもが生まれると、男の子だけですが、7代前までの名前を全部暗記させるんです。それから、どこで生まれてどこで死んだということも全部暗記させるんです。そして、もし祖先の7代までのうちに殺された人がいたら、誰に殺されたかも同時に暗記させるんです。それで、殺した奴の7代前まで報復をしなければいけないのです。殺した方の家の男系7代に渡ってそれは続くんです。そういう「血の報復の掟」があります。これは今でも厳しく守られています。仇討ちの旅に出なければならないんです。そうじゃないと一族が許してくれない。
 一見すると、これは大変乱暴なように見えるんですが、実はコーカサス地域は、この掟があるから、安定していたんです。チェチェン人というのは、どんなにカーッとしても、絶対に相手を殺さない。殺すと「血の報復の掟」が作用するからです。7代に渡って逃げ回らなければならない。だから、これは殺し合いの抑止要因になると同時に、万一そういったことが起きても、部族間の永続的な戦争にはならないんです。7代で終わりますから。
 ですから、チェチェンで戦っているロシア兵は覆面をしています。どうしてかというと、チェチェン人にとってはロシア軍一般が悪いということにならないで、このロシア兵が殺った、だから、こいつに復讐してやる、ということになるんです。殺されたチェチェン人の一族は、殺ったロシア人の一族を調べて必ず報復する。7代まで復讐する。そういうことになるからです。ですからロシア兵は顔を特定されないように覆面をしているんです。


【『国家の崩壊』佐藤優宮崎学(にんげん出版、2006年)】


 田中宇によると、ソルジェニーツィンの『収容所群島』にも記されているとのこと。


真の囚人:負けないチェチェン人


 どうやら、グルカ兵の次に怖いのはチェチェン人のようだ。確か船戸与一の作品に書かれていたと記憶しているが、グルカ族は来客が宿泊する場合、自分の娘を同じ部屋に寝させる。これは主人が客を絶対的に信用していることを示すもので、万が一娘に手をつけた場合、世界の果てに逃げようとも必ず殺される運命となる。100パーセント確実に。


 仇(あだ)を討たねば、恨みは晴れない。これは人間という動物に課された、どうしようもない“物語性”である。正義を自らの手によって遂行しなければ、「自分の世界」(=先祖、家族、コミュニティ、社会)が崩壊してしまう。


 それにしても、ロシア兵ですら顔を隠すというのは凄い。「掟」が完全に「法」と化している証拠であろう。紙に書かれた法律なんかよりも、はるかに力がある。


怨みと怒り/『日常語訳 ダンマパダ ブッダの〈真理の言葉〉』今枝由郎