・厳格極まる音楽教育
齊藤秀雄は著名な英語学者・齊藤秀三郎の子息である。戦後は桐朋学園で音楽教育に取り組み、ここから小澤征爾、岩城宏之、秋山和慶など錚々(そうそう)たる音楽家が巣立っていった。
齊藤の指導は厳格を極めた――
オーケストラを教えていても、できる子が間違えると怒る。それから二度目に弾けると怒る。最初からなぜそのようにやらないのか、と。
蜂が刺しても、それを払うと叱られる。そんなことに気を散らしてはいけない、と。
もう20年以上前に読んだ本だが、今尚記憶に痕跡をとどめている。齊藤門下数十名が恩師を偲(しの)び述懐する。言葉という言葉が齊藤秀雄の巨大な輪郭を見事に描いている。
齊藤は「生徒ができる」と徹して信じ抜いた。だからこそ微塵の妥協をも許さなかったのだ。「真剣」とは相手の生命を絶つことのできる本物の刀のことである。命を懸ける思いがあるから真剣になる。師の厳しき一念が、今でも門下生の心を支えていることだろう。